第1話-5
ミーティアはさりげなく毛布を胸元まで引き上げつつ、老聖職者たちに頭を下げる。
「お初にお目にかかります。地方第五神殿付属の聖女、ミーティアです。……
「ほっほっほっ。奥ゆかしいの。不当に中央を追放された首席聖女と名乗ってもよいであろうに。……して、ポポ
三人が会話しているあいだも、じっとミーティアを見つめて動かなかったよぼよぼの聖職者は、ようやくもごもごと口元を動かした。
「確かに、すばらしい……すばらしすぎる力を感じる……話に聞いただけでも充分可能性はあったが……実際に見れば間違いない……」
「ポポ爺さん、なにが間違いないんだ? あともうちょっと大きい声で喋ってくれ、頼むから」
リオネルがそう言うのもわかるほど、ポポは震える小さな声でぼそぼそつぶやいていた。ミーティアも思わず前屈みになって耳を澄ましてしまう。
そうして彼女が耳を寄せた瞬間、ポポはぼそっとつぶやいた。
「お嬢ちゃん……あんたおそらく『
ほとんど確信に満ちた問いかけに、ミーティアは鋭く息を呑んだ。
「……どうして」
「見えるのじゃよ……わしは見る力に長けた聖職者じゃから……」
ポポはやはりぼそぼそと答えた。
「あんたのその力が……なんのためのものなのか……それはあんたが一番知っているね……?」
「……」
ミーティアはくちびるを引き結ぶ。リオネルが「おい、ポポ爺の言葉が全然聞こえないんだが、なにを言っているんだ?」と尋ねてきたが、答えられなかった。
そしてポポもそれ以上言うことはなかったのだろう。よぼよぼと扉へ歩いて行った。
「若い娘さんの部屋に……長居はできないからの……」
「む、ポポ爺さん、用事は済んだということかえ? なら我々はお
さいなら~と手を振って、きたときと同様、二人の老人はこちらの返事も聞かずに部屋を出て行った。
「なんだったんだ、いったい」
リオネルが眉を寄せる。彼はちらっとミーティアの様子を見ると、なにか言いたそうに口を開いたが。
「――リオネル様? 今ロードバン様たちが出て行かれたけど、入って大丈夫?」
外から扉をノックされ、チューリの声が聞こえてきた。リオネルは「あ、ああ」とうなずく。
「ミーティア、チューリ殿を入れてもかまわないよな?」
「……ええ、大丈夫よ」
リオネルはじっとミーティアの様子を観察してから、みずから扉を開けに行く。
入っていたチューリは起き上がっているミーティアを見るなり仰天して「まだ寝ていないと駄目よ」とあわてて入ってきた。
「熱は下がっても、疲労が全部取れているとは限りませんからね。今日はゆっくり休むのよ、ミーティア様。いいわね?」
「え、ええ、チューリ様」
「わたしはお昼をいただいてきたから、ミーティア様の看病を交代するわ。リオネル様はご飯に行ってきて、そしてちゃんと寝なさい」
「すっかりお袋めいてきたな、チューリ殿」
リオネルは片方の耳に指を突っ込みつつ「へいへい」と返事をして、ミーティアに目を向けた。
「……チューリ殿の言うとおり、今日はゆっくり過ごせよ」
そうしてかたわらの荷箱を担ぐと、彼は狭い客室を出て行ったのだった。
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