第2話-2

 翌日には畑や家畜への祈りも終えることができた。

 騎士たちが力仕事を請け負うこともあって、街の人々は自分たちから「こんにちは」と挨拶してくれるほど友好的になった。


「地方第四神殿が近いなら、そちらに挨拶にも行きたいわね」

「おれも騎士隊長として同じことを思っていた。第五神殿周辺の状態も伝えておきたいし、国境の対策も一緒に練れればと思ってな。というわけで今朝方、部下を一人そちらに向かわせたよ」


 こういうところの行動力はさすがである。とりあえずその騎士が戻ってくるまでこの街に滞在しようかと、拠点となった元宿屋で話していたら……。


「失礼します、聖女様。地方第四神殿の聖女様がいらしているんですが」


 街長まちおさがわざわざやってきて、そう知らせてくれた。


「地方第四神殿の? まぁ、すぐにお通ししてください」


 会いに行こうと思っていた当人がやってきたことに驚きつつ、ミーティアは即座にうなずく。


 街長の案内でやってきたのは、古い外套がいとうを身につけ、使い込まれた杖を手にした聖女だった。

 年齢は30代の半ばくらいか。すらりと背が高く、理知的な光を宿した目をしていた。


「ああ、あなたがミーティア様ね? 首席聖女であられた……! 国境の【くい】を直してくださったのもあなた様とうかがいました。本当になんと感謝をお伝えすればいいか……!」


 その聖女は涙で瞳を潤ませると、迷うことなくミーティアの足下にひざまずいた。


 自分より倍も年上の方に膝をつかれて、さしものミーティアもあわててしまう。


「どうかお立ちになって、顔を上げてください。首席聖女と言っても『元』ですもの。今のわたくしたちは一介の聖女という同じ立場ですわ」


 しかし、その聖女はきっぱり首を横に振った。


「とんでもない。ミーティア様のお力が桁違けたちがいなのは、こうしておそばにいるだけでもわかります。まとっているオーラが違いますもの」


 オーラが見えるなんて、とミーティアは驚いてしまう。

 一目見てその聖女の力を推しはかることができるのは、それこそ優秀であることの証だ。思っていた通り、地方第四神殿の聖女は力のある方だったらしい。


「とにかく、お立ちになって。自分の母と同じ年代の方をひざまずかせておくことなどできません。椅子にお座りになってください」


 ミーティアは聖女の手を取り、比較的立て付けのいい椅子へ彼女を導いた。


「申し遅れました。わたくしは地方第四神殿所属の聖女、チューリでございます。若い頃は中央神殿に勤めており、十年前にこちらの神殿に配属になりました」

「十年前……わたくしが中央神殿で聖女の修行をはじめたのは八年前ですから、お目にかかる機会はなかったのですね」

「聖女の最盛期は十年もありませんからね、そのようなすれ違いはよくあるのです。……失礼しました、話がずれましたね。とにかく、ミーティア様がこちらにいらっしゃると聞いて、いても立ってもいられず足を運びましたの」


 胸元に手を当てたチューリは深々と頭を下げた。


「国境を守る【杭】ですが、わたしひとりではとても修理ができない有様になっていました。ミーティア様のような力を持つ聖女が処置を施してくださって、本当に助かりましたわ。地方神殿勤めの聖女を代表して、お礼を申し上げます」

「お礼なんて。【杭】の管理は神殿の仕事で、祈りを捧げるのは聖女の仕事。わたくしは自分の仕事をまっとうしただけです」

「頼もしお言葉ですわ。聖女と言えど考え方はさまざま……それだけに、一口に地方や辺境と申しましても、北は魔物がみ着く森に近いぶん、きたがる者が少ない土地ですから……」


 普段からそれが悩みの種なのだろう。チューリは重々しいため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る