第2話-4

 リオネルの言葉はもっともだ。だがチューリは「おそらく……」とあきらめ顔で肩を落とした。


「手紙が届いていない可能性が高いと思うのです。いつも街や村の人間に手紙を託していたのですが、いずれも帰ってこないことが多くて……。路銀ろぎんも一緒に渡していたので、それをくすねて姿をくらましてしまったのではないかと……」

「ああ……それはありえるな。口惜しいが。おれとミーティアの手紙は、うちの部隊の騎士が届けるから確実に届いているだろうが……」


 リオネルはふぅっとため息をついた。ミーティアはふと今日の日付を思い出す。


「そういえば、一番新しい手紙を頼んだ騎士はまだ帰ってこないわね?」


 もう数日経っているけれど……と言外に伝えると、リオネルはうなずいた。


「馬を飛ばしても、中央まで片道四日はかかる道のりだからな。往復すると一週間以上かかる。そろそろ戻ってきてもいい頃合いではあるが、そもそもおれたちがここにいることを使いに出した騎士は知らないだろう。いずれ追いつくとは思うが、多少日数がかかるのはしかたない」


 確かにそうね、とミーティアはうなずいた。


「【くい】もそうですが、聖女の数も足りていないのが現状です。地方第五神殿が崩壊して、駐在していた聖女と聖職者が中央に逃げてしまったでしょう? そのせいで第四、第三神殿に多くの患者や怪我人が押しかけることになって……」


 チューリは疲労のにじむため息をついた。


「わたしもこうなる前は、ここをはじめ街や村を回って治癒や護符を施していましたが、とても追いつかなくて。年も年ですから、聖女の力自体かなり弱くなっているところもあります。ミーティア様ほどでなくても、二十代くらいの若い聖女が駐在してくれればいいのですが……」

「騎士もそうだが、聖女もどうしても南に取られがちだからな……」


 貴族をはじめ特権階級にあるもの、そして富を持つ者はこぞって南へ向かう。気候が温暖というのもあるし、魔物がみ着く場所が少なく、土地も潤っているからだ。


 水がきれいな中央……いわゆる王都、そして肥沃ひよくな土地を有する南。東と西も、まぁまぁの人間が住んでいるが、北は魔物の住処すみかが近いぶん、昔からまっ先に放置される土地なのである。


「今、南のほうでも魔物が多く出現しているようで、騎士がそちらに次々投入され、聖女たちも彼らの治癒で手一杯なのです。わたくしが中央神殿にいたときも、患者が引きも切らずに押し寄せる状態で、寝る間も惜しんでの治癒を続けておりました」


 ミーティアが苦い思いで告げると、チューリも「まぁ、そんなことになっているなんて……」と眉をひそめた。


「でも南に魔物なんてめずらしい。南は魔物の数が少ない上に、【杭】も北よりずっと多く配置されているから、そうそう魔物が近寄ってくることもないでしょうに」


 チューリの言葉に、ミーティアとリオネルは思わず顔を見合わせた。


「……確かに、そうだよな。南に派遣される騎士がポンコツだからこそ起きている事態だと思っていたが、言われてみれば南のほうが【杭】による守りは万全だ」

「そこへ魔物がたくさん現れるということは……もしかして南も【杭】が壊れていたりするのかしら?」

「現れるって言うことは、そうなんだろうな。【杭】は【神樹しんじゅ】の力を国中に行き渡らせると同時に、魔物よけの結界の役割を持つ。それが壊されているなら……」


 ミーティアもリオネルも同時に口をつぐんで、チューリを見やる。チューリも難しい顔で考え込んでいた。


「そもそも、なぜ【杭】があのように壊れていたかも謎なのです。【杭】の中には【神樹】の皮が詰め込まれていて、魔物はさわるどころか近寄ることすらできないはずなのに」

「どの【杭】も真っ二つに割れて、中身がなくなっている感じでしたね」

「そう、そうなの。それも気になっていたのよ。魔物があんな器用な壊し方をできるなんて、正直あり得ないと思うわ。ミーティア様はどう思って?」


 ミーティアもまた眉間みけんしわを寄せながらうなずいた。

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