第2話-4
相手を見直したのはミーティアだけではなかったらしい。
リオネルも護符の一枚を取り上げて、ためつすがめつ、そのできあがりを観察する。
「護符に書かれている古語の守りの呪文……すごく上手いな。おまけに文字がきらきら輝いている。それだけ強い力が込められている証拠だ」
「お褒めにあずかりまして」
「護符に守られていないと、おちおち仮眠も取れなかったからな……。これで部下たちも多少はほっとできるだろう。感謝する」
ミーティアは軽く眉を上げた。
「お礼は受け取ったわ。ついでだから謝罪もしてくださる?」
「謝罪?」
「ひとのことを出来損ないとか言っていたじゃない」
リオネルはあっけにとられた顔をした。
「……そういうの、根に持つタイプか?」
「ええ。末代まで呪って差し上げたくなる程度には」
ミーティアは杖を手にしっかり胸を張った。
「呪うなんてできないだろうと思わないことね。この天才聖女のミーティア様には不可能はなくってよ。すみやかに前言を撤回して謝罪しなさい。そうすれば、もう少しあなた方に協力してあげてもよろしくてよ」
「すごい自信だな」
リオネルはあきれた顔を見せるが、手にしている護符の精度が高いのはわかっているだろう。
護符だけでなく、結界や治癒の力も見ているだけに、異論は覚えなかったようだ。
「出来損ないと呼んで悪かったよ。二度と軽はずみなことは言わない。この隊の隊長として心から謝罪する。――だから、しばらくおれたちに協力してほしい」
「素直な殿方はきらいじゃなくてよ」
ミーティアもにっこりほほ笑む。右手を差し出すと、リオネルは目を丸くしながらも、その手をしっかり握りしめた。
協力の証の握手のもと、ミーティアはしばらくリオネル率いる第二隊について回ることとなった。
「しかし、護符も結界も治癒もできてる聖女なんて
神殿に隊の半分を置いておき、あとの半分と一緒に周辺を周っている最中、隊長のリオネルが尋ねてきた。
ミーティアは神殿で書いた護符を枯れた木や建物跡に貼り付けながら、淡々と答える。
「ええ。確かに首席聖女になったあとは、神殿の庭に出ることすらできなかったわね。なにせ次々と重病人だか重傷人だかが担がれてきて、そっちの治癒に年がら年中駆り出されていたから」
「それは……大変だったな」
「ええ。でも怪我人や病人を癒やすのは聖女の一番の仕事だから、それはいいのよ。とはいえ……運ばれてくる重症者が、いわゆる特権階級の人間ばかりであろうことは気になったけれどね」
ミーティアは低い声でつけ足す。リオネルもなにか察した様子でうなずいていた。
「どこの世界でもそうさ。優遇されるのは貴族や聖職者。特権も能力もない人間はゴミ以下なのが世の常だ」
「でも、わたくしはそういう存在にも目を向けたいと思ったのよ」
護符をペタッと貼りながらミーティアは奥歯を噛みしめる。
「ついでに、神殿の体制も替えるべきだと訴えたわけ。魔物が国境を越えてくるなら、力ある聖女こそ地方に向かわせ、騎士たちとともに魔物を払い、国境を守る【杭】の修繕に回るべきだって」
「……そりゃあまた、めちゃくちゃ反対されただろう?」
頬を引き
「反対された挙げ句、将来有望な聖女が出てきたから、首席聖女の試験をやり直せと言われてね。その子と一騎打ちしたのよ」
「……は~ん、読めたぞ。要はおまえの主張が気に入らない奴らが、おまえを地方に飛ばすために
「でしょうね。採点なんかしなくても、わたしのほうが明らかに好成績だったのは上の人間もわかっていたと思うわ」
――とはいえ、グロリオーサも歴代の首席聖女と比べて、さほど劣っているわけではない。
まだ十六歳でありながら、護符も結界も効き目は弱くても展開できるし、治癒の力も並みの聖女より強いのだ。
時代が時代なら、あと数年のうちに首席聖女に推薦されていたことだろう。
――ミーティアという飛び抜けた天才がいなかったら、という話ではあるが。
「お
「あら、そうでもないわ。地方に出て行きたいというのはまぎれもないわたしの希望でもあったし。この惨状を自分の目で見られてよかった」
ミーティアはぐるりと周囲を見回した。
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