第2話-3
隊長格の騎士もまさか言い返されるとは思わなかったのだろう。かすかに
「あら、わたくしは礼を尽くしてくださる方には同じように礼を尽くすわ。だから無礼な方には無礼を返しているだけ。なにか間違っていて?」
「――はっ、このおれ相手にそんな憎まれ口を叩ける度胸は褒めてやる。それに、あの結界と癒やしの力も」
隊長格の騎士はふと真顔になって背筋を伸ばした。
「王国騎士団第三師団、第二隊隊長リオネル・アディッカンだ。そっちは?」
「今日から地方第五神殿の所属になった聖女、ミーティアよ。中央神殿から派遣されてきたわ」
「中央神殿なんて……聖女の中でもエリートが集まるところなのに、どうしてこんな辺境へ……」
周りを取り囲んでいた騎士のひとりがほうけたようにつぶやいた。
ミーティアはそちらに向けて肩をすくめてみせる。
「わたくしほどの才能の持ち主では、中央神殿と言えど窮屈なのよ」
「……聖女としての才能にあふれているのは認めよう。魔物の毒を完璧に防げる結界を張れるなんて芸当、聖女の中でもほんの一握りしかできないことだからな」
隊長格の騎士――もといリオネルはふーっと息を吐き出すと、それまでの刺々しさを少し引っ込めた。
「悪いがすぐに護符を張ってくれないか? 神殿周りだけでいい」
「そのほうがよさそうね。あんな魔物が【杭】を越えてくるなんて、いったいこのあたりはどうなっているのよ」
「説明する。擦り傷しか治せない無能聖女がきたなら、説明なんざせずにすぐ追い返すが、おまえは違うようだからな」
いちいち突っかかる言い方をするわねと思いつつ、ミーティアは「
鞄は騎士のひとりがすぐ見つけてくれた。中から顔の大きさほどの紙を束で取り出したミーティアは、杖の先の宝石だけを取り外して、それを紙に押し当てる。
ぐりぐりと書いていくと、宝石がぼうっと光を宿す。宝石がたどった軌跡がピンク色に光り出し、紙に不思議な模様を描き出した。
「どんどん書いていくから建物の周りに貼っていって」
「ヨークとロイジャ、担当してくれ」
「はい!」
名指しされた騎士たちは、ミーティアが作った護符を手にすぐに外へ出て行った。
「というか、この神殿には聖職者と聖女はいないの? いくら辺境と言えど、護符を書ける人間が一人くらいいてもおかしくないでしょう」
手は止めないまま、ミーティアはあきれまじりに問いかける。
「二週間前から魔物がこのあたりに出るようになったんだ。それで近くの村人と一緒に、中央寄りの街に避難させた。怪我人の手当てだけで精一杯って力量の奴らだったからな」
護符の精度もいまいちだったし、とリオネルはぼそっとつけ足す。ミーティアは肩をすくめることでそれに答えた。
「では、この神殿は今は無人なのね? 周辺の村も」
「ああ。ここは今や、おれたちの魔物退治の拠点だな。だが……そろそろ水が尽きる。移動しないといけないだろう」
「水が……?」
ミーティアは紙から顔を上げた。
「このあたりの水は飲めないの?」
「ああ、もう汚染がはじまってる。魔物がガンガン入ってくるんだ。当然、
ミーティアは木枠だけが残った窓から外を見やる。
確かに、地面はひび割れているし、木もしおれて真っ黒になって枯れていた。このような大地では、まともな水も確保することはできないだろう。
「水がないのは致命的ね……」
「二ヶ月前までは定期的な支援もあったが、最近は途絶えている。うわさじゃ南のほうもここと似たような状況らしくて、支援はそっちに集中しているそうだ」
「南は……貴族たちの住まいが多くあるところね」
「お察しいただけて嬉しいよ」
今度はリオネルのほうが肩をすくめてみせた。
「いろいろ大変な状況だってことはわかったわ。――はい、最後の護符。これだけ貼ればこの建物は安全でしょう」
書き上がった護符を押しつけると、リオネルは文句も言わず受け取った。
「助かる。本当にありがとう」
(――あら、素直にお礼を言えるのね)
ミーティアは軽く目を見開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます