第2話-7

「わかっているだろうが、国境に近づけば近づくほど、魔物はうじゃうじゃ出てくるぞ。さっき襲ってきたような奴が一気に五体くらい出てくるかも」


「そうでしょうね。それでも【杭】を放っておけないわ。壊れているなら修繕しないといけないし、それが不可能ならもっと内側に差し直す必要も出てくるでしょう」


 なにせ国境に等間隔に刺さっている【杭】は、神樹が生み出す正常な水と空気を保つための重要な鍵なのだ。

 【杭】には歴代の聖女たちがかけてきた守りの力が込められていて、神樹の力が国内に均等に届くように調整する役割を担っている。【神樹】の力を国内に留める結界としての役割もあるのだ。


 だからこそ、その【杭】が壊れる、あるいは抜けていると【神樹】の力が均等に届かず、どうしてもその土地は汚染されてしまうし、魔物も外から入りやすくなってしまう。

 三方が山に囲まれているサータリアン神聖国であるが、この北だけは魔物が多く住まう森が広がっているため、昔からどうしても【杭】が壊されたり抜けていたりする被害が多いのだ。


(本来なら一年ごとに聖女が派遣されて、守りの力を強化しておくのだけど……魔物の侵攻とそれによる怪我人が増えたことで、聖女もその手当てに手一杯になっていたから)


 北のほうは魔物が多いという先入観もあり、多くの聖女が「北へなど恐ろしくて出て行けない」と言っているくらいだ。

 その結果が魔物が侵攻し放題の現状だとしたら、神殿と聖女の怠慢だったと言わざるを得ない。


(この惨状を、中央でのさばる筆頭聖職者たちに見せてやりたいわ)


 ミーティアの中に怒りが湧きあがる。すでにいくつかの村がなくなっていると思うと、腹立たしさもより大きくなる思いだ。

 ミーティアの怒りに気づいているのかはわからないが、言っていることはもっともだと思ったのだろう。リオネルはうなずいた。


「入ってくる魔物を退治することももちろん大事だが、そもそも入ってこないようにすることにも力を入れていかないとだな。並みの聖女の提案なら難しいと一蹴するところだが、自称天才の聖女がいればなんとかなるかもしれない」

「自称ではなく事実よ?」

「とにかく水だ。なにを置いても水の確保は最優先。そのあとでまた拠点を探して、国境を回ろう。入り込んでいる魔物はもれなく封印。ぶっ壊れている【杭】は修繕。いいな!?」

「おお――ッ!」


 リオネルの言葉に騎士たちも拳を突き出して応じる。もう数ヶ月は国境にいるはずなのに、力を失っていないのは特筆すべきことだ。


(わたくしもがんばらないとね)


 杖をぎゅっと握りしめて、ミーティアは決意を新たにするのだった。

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