第4話-4

 部下たちに「おじいちゃん相手に駄目ですよぉ、怒鳴っちゃ」「気持ちはわかりますけどね」となだめられることにすらイライラしつつ待っていると、ロードバンが彼よりさらによぼよぼとした老聖職者を連れて戻ってきた。


「えーと、はいはい……おはようございますね、はいはい……」


 チューリが言ったとおりボケているのか、ポポという名の聖職者は、リオネルが声をかけてもこんな調子でもごもごしている。リオネルはさらにイラッとした。


「本当に大丈夫なのか? このじいさんに、解読? とやらを任せても」

「わしは聖職者としての力は弱い研究専門ジジイじゃが、ポポ爺さんは逆に力のあるジジイじゃ。任せておけば問題ないぞ」


 ロードバンが請け合う。本当かよ、とリオネルのみならず騎士たちは全員懐疑的かいぎてきな面持ちだ。

 だが現状、頼れる相手はこのよぼよぼの聖職者しかいない。そして彼は年老いたせいでぷるぷる手を震わせながら、なにかに惹かれるように布を取り上げた。


「ふむふむ……ほうほう……『助けて』とな……?」

「『助けて』……?」


 どうやらポポ爺さんは布に記してあるなにかを読み取れるらしく(眉毛が伸びまくって目元を覆っているので、目の前のものが見ているかも不明なのに)、その後もぼそぼそと単語をつぶやいていった。


「『助力請う』……『聖女ミーティア』……『神樹しんじゅ』『危機』……『帰還求む』……『早急に』……」


 どうやらそれが全文だったらしく、ポポ爺さんは震える手で布を差し出してきた。

 それを受け取りながらも、リオネルはとまどいの声を上げる。


「ミーティアに対する帰還要請、ってことか? おまけに【神樹】の危機だと?」

「そりゃあ、これだけ皮ががされちゃ、【神樹】がやばいことになっているのは検討がつきます」


 箱いっぱいの皮とその残骸ざんがいを見て、騎士たちが「さもありなん」とうなずいた。


「ミーティア様を追放したことを、中央の奴らが後悔しはじめたってことですかね?」

「そういうことになるのか……?」


 騎士たちが首をかしげる中、副隊長セギンが丁寧に尋ねた。


「ポポ殿、この布は中央神殿からきたものに間違いないですかな?」


 ポポ爺さんはもごもごと口ひげを動かしつつ、しっかりうなずいた。


「間違いなく、中央からの便りじゃよ。……ふわぁ……」

「おいおいおい、ここで眠るな。まだ朝なのにもう昼寝かよ、この爺さん」

「ポポ爺さんは二、三時間ごとに寝たり起きたりの日々じゃからなぁ」


 ロードバンが「年寄りにはよくあることよ」と口ひげをなでながら説明した。


「はぁ、年は取りたくないもんだな。……しかし、帰れと言われたところでミーティアがあれじゃ、どのみち動けないからな」


 リオネルは「追い出したり戻れって命じたり、中央神殿って忙しいな」と毒づきつつ、布を懐にしまった。


「朝食が終わったら全員に向けて話したいことがあるから、今寝ている奴や見張りに出ている奴にも周知しておいてくれ」

「わかりました」

「じゃあ朝飯も早めに用意しちゃいますね」

「馬たちの世話も頼むな」

「はーい」


 太陽がしっかり昇ったところで、全員がそれぞれの仕事に動き出す。


「隊長、【神樹】の皮はどうしましょうか?」

「その辺に置いておくわけにはいかないからな。おれが持ち運ぶようにするよ」

「お願いします」


 リオネルは荷箱のふたをしっかり閉めて、片方の肩に担いで歩いて行った。

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