第1話-3

「お、気がついたか。またうなされていたぞ。大丈夫か?」

「いろいろ最悪な気分だけど……やっぱり寝台で寝るのはいいわね」


 起きた瞬間に見えたのがリオネルというのが微妙だが、と思いつつ、ミーティアは彼の手を借りてゆっくり起き上がった。


「ここは?」

「あの地点から南下したところにある街さ。おまえが途中で気を失ったから、遠慮なく馬をぶっ飛ばして、夕方になる前に到着できた。ここは宿屋だった建物で、今は空き家だそうだ。騎士たちの拠点にしていいってさ」


 ありがたい申し出だろうに、リオネルは不本意そうにため息をついていた。


「どうかしたの?」

「いや、街の奴らが、ここを使う条件として『聖女が回復次第、街の人間を癒やして回れ』って言ってきたもんだから、さ。ちょっとむかっときてて」

「あら、街の人間からすれば当然の条件ではなくて? 誰もタダでよそ者を泊めたいとは思わないわよ」

「そうだけどさ。騎士たちだって畑仕事とか修理仕事とかできるのに、そっちはまったく眼中にないみたいな言い方をされたから……」


 ……なるほど、聖女に比べて騎士は役に立たないと思われたのが気に食わないのか。


「それは、確かにいやだったわね」

「……まぁ、前に立ち寄った街ほどではないとはいえ、ここの奴らも飢えているし、聖女にあやかりたいのはわかるんだけどさ」


 リオネルは自身に言い聞かせるようにつぶやいて肩をすくめた。


「なんにせよ、今夜はゆっくり休め。街長にも聖女の癒やしは明日からだと言ってあるから」

「ええ、わかったわ」

「……無理はしていないか?」

「え?」


 ふとリオネルが真面目な声音で言ったので、ミーティアは目をまたたかせた。


「無理って……」

「寝言で言っていたぞ。『わかってる』とか『ちゃんとやるから』とか。前に寝込んだときも同じようなことを言っていた。まるで脅迫でも受けているみたいなうなされ方だった」

「……」


 ミーティアは背筋がすっと冷たくなるのを感じて黙り込む。まさかそんな寝言を言っていたとは。完全に不覚だった。


 ミーティアの顔色が変わったのを見てか、立ち上がっていたリオネルは寝台の端に腰かけ、彼女の顔をじっと見つめてくる。


「熱を出したりしたときだけ、そういう変な夢を見るなんて尋常じんじょうじゃないぞ。いったいどんな夢を見ているんだ?」

「……言いたくないわ」

「まだ、言うに値しないってことか? おれという存在は」


 ミーティアはびっくりして息を呑んだ。


「そういうわけじゃないわ。ただ……自分でもあんまり口にしたくないことなのよ」

「弱みを見せるようでいやだから?」

「そうではなくて……」


 こんなに突っ込んで聞かれるなんて思ってもみなかったから、ミーティアは自分でも意外に思うほどあわててしまった。

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