追放上等! 天才聖女のわたくしは、どこでだろうと輝けますので。

佐倉 紫

第一章

第1話-1

「聖女ミーティアよ。ただいまをもって、そなたから首席聖女の称号を剥奪はくだつする! 以後、地方第五神殿にて勤めに励むように」


 重々しい宣告がホールの高い天井に反響する。

 一瞬の沈黙ののち、ホールに集まっていた聖女や聖職者たちから「ええっ……?」という困惑の声が響いた。


「い、いったいどうして。ミーティア様が首席聖女の称号を剥奪されるなんて」

弱冠じゃっかん十八歳で聖女の頂点に上り詰めた方が、就任からたった三ヶ月程度で……」

「いったいどういうことなんだ?」


 集まった人々は口々につぶやき、不安な顔を付き合わせる。

 そして、ホールの中央に立つ、くだんの聖女ミーティアへと怖々と視線を向けた。


 多くの聖女と聖職者が囲む中、ホールの中央に立っていたのは、聖女の証である杖を手にしたうら若き乙女である。

 金糸のごとき柔らかな髪に、夏空のように透き通った瞳。白いローブをまとう身体はほっそりとしているのに、背筋はピンと伸びている。立ち姿のみならず、まっすぐに前を見つめる視線も引き締まった口元もりんとしていて、惚れ惚れするほどの美しさだ。


 いつもは楚々そそとしたほほ笑みを浮かべ、たおやかな仕草で人々を魅了する聖女ミーティアだが……さすがに下された宣告が予想外だったためだろう。今は真っ白な肌を少し青くして、くちびるをぎゅっと引き結んでいる。


 それもそうだろう。彼女は首席聖女に任命されたこの三ヶ月、その務めをまっとうすべく寝食を惜しんで働いていた。


 それなのに、突然の称号剥奪の宣告――。


 いったいどうして、とこの場にいる全員が驚いたのだ。無情な事実を突きつけられた本人は、なお信じがたいことであろう。


「おまけに、地方の神殿へ配属ですって」

「それって……事実上の左遷というか、追放じゃないか」


 それもまた衝撃的な事実だ。ここ、中央神殿こそが国内でもっとも権威と名誉がある場所だというのに、そこから地方に飛ばされるなんて……。

 清純で心優しく、しとやかな聖女ミーティアにとって、それはどれほどショックで悲しいことであろう。


「……もしかしたらショックのあまり倒れてしまうかも」

「だって、見てごらんなさいよ、ミーティア様ったら先ほどから微動びどうだにしていないわ」

「まばたきすらされていない……」


 周囲の人々は怖々とミーティアの様子を見守る。

 青い瞳をわずかに見開き、色を失ったくちびるを引き結んでいた聖女ミーティアは、全員がごくりと生唾なまつばを呑み込んで見守る中――。

 ふ、と目を据わらせて、杖を持っていない手を腰に持っていった。そしてわずかにあごを引き、目の前の人物を思い切りにらみつける。

 ほどなく、そのふっくらしたくちびるからは、


「――はあ?」


 という、低くドスの利いた声が飛び出してきた。


「ひっ……、ミ、ミーティア様?」


 彼女を取り囲んでいた聖女の一人がびくっとしながら問いかける。他の面々のまったく同じ面持ちで、突如険悪な様子になったミーティアを怖々と見つめた。

 そんな中、当の聖女ミーティアはゴゴゴゴ……という地鳴りの音すら聞こえてきそうな雰囲気で、可憐なくちびるからどこまでも低い声を漏らす。


「このわたくしから、首席聖女の称号を剥奪……? 筆頭聖職者ボランゾン様? もしや、頭の表面だけではなく中身まで薄っぺらになってしまいましたの?」

「はっ……?」


 怒りを過分にふくんだ声はもちろん、言葉の内容も不穏なものだ。

 居並ぶ人々も、宣告を下した筆頭聖職者のボランゾンも、思わずびくっと首をすくめてしまった。


「え、え、ええと、ミーティアよ……?」

「目を丸くしてないで、さっさと答えてくださいます? 優秀かつ有能なこのわたくしを首席聖女の座から降ろすなんて、正気かどうかと聞いているのですが?」


 手にした杖で大理石造りの床をガンッと叩き、聖女ミーティアは目の前のボランゾンを睥睨へいげいする。ボランゾンのほうが彼女の三倍は長く生きているというのに、そんなことはお構いなしと言わんばかりの傲慢ごうまんな視線だ。

 聖女と言うより、もはや魔王のような雰囲気に、ボランゾンも周囲も思わず冷や汗をかいてしまった。

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