第3話-3

「ミーティア様と行動を共にしていた騎士殿がここにいるということは、その伝言に気づいて、ミーティア様もここにきているということですよね?」

「ああ、まぁな」

「今のボランゾン様は、我々が知るあの方とはまるで別人になってしまった……。なにか、聖女にも聖職者にもない力が働いている気がしてならないのです。我々はそれがなにかを掴むまでにはいかなかった。でも、ミーティア様なら……」


 興奮気味に語っていた聖職者だが、ミーティアがきていると聞いたことで気が抜けたのか、ずるずると壁伝いに倒れてしまう。


「あとでほかの王国騎士がここにくる。そしたら保護してもらえ。おれは先に行く。置いていって悪いが、わかってくれ」


 聖職者はかろうじてあごを引いて「わかった」と答えた。リオネルは「気を強く持てよ」とその肩を叩いて、再び別部屋の探索をはじめる。

 あちこち走り回りながら、先ほどの聖職者の言葉を反芻はんすうした。


(しかし、誰もミーティアの追放を望んでいなかったというなら……最初の街に寄ったときに、魔鳩マバトが【神樹しんじゅ】入りの荷箱を運ぶついでに、それなりの補給を背負ってきたのも、中央神殿の奴らの好意だったのかもしれないな)


 騎士たちというより、辺境で踏ん張るミーティアが活動できるようにと、あれこれ魔鳩に背負わせたのかもしれない。護符を書くための紙が大量に入っていたし、食料も豊富に積んであったのだから。


(つまりおれたち向きの武器とかは、ミーティアを守るためにしっかりしろっていう激励げきれいの意味だったのかな)


 完全に騎士たちがおまけ程度になっているな……そう苦笑しながら、リオネルはとにかく突き進む。

 それからも二人の聖職者を助けた。いずれもミーティアの帰還を切望している様子だった。


「【神樹】があんなことになるなんて……早くどうにかしなければ、大変なことになってしまう」

「我々のことはいいのです、ボランゾン様を止めてください」


 ――どうやら筆頭聖職者ボランゾンが、すべての黒幕であるのは確かなようだ。どいつもこいつも「ひとが変わったようにボランゾンがおかしくなった」と口をそろえていってくる。

 そして【神樹】の皮をいでいるのも、どうやらボランゾンとその取り巻きの一部の聖職者の仕業のようだ。


 最後に助けた聖職者は、はっきりその場面を目撃したと言っていた。


「夜にボランゾン様を訪ねたとき、お部屋にいらっしゃらなかったので、礼拝室にいるのかと見に行ったのです。そしたら……ボランゾン様が、本当にひどいやり方で【神樹】の皮を剥いでいて……」


 思い出すのもいやな場面なのだろう。その聖職者はぎゅっと目を閉じて、血を吐くような面持ちで述懐じゅっかいした。


「そのせいで、こうして閉じ込められることになりました。自分より前に謹慎きんしんを言いつけられていた者たちも、おそらく同じ理由でそうなったのでしょう。【神樹】を傷つけるなどありえないことですが、皮を雑に箱に詰めて国外に運ばせるなど言語道断ごんごどうだんです。どうかボランゾン様の暴挙ぼうきょを止めてください……!」


(――筆頭聖職者、ボランゾンか……)


 ほかでもないミーティアを辺境に追放した奴だ。

 だが地方第四神殿の神殿長ロードバンは、同期のボランゾンのことを真面目で慈悲深く、優秀な男だと言っていた。


(年を取れば人間が変わることもあるとも言われたが、【神樹】の皮を剥ぐのは年取ったなんて理由じゃ済まされないだろうよ)


 速度を緩めず建物から建物へ走り抜けながら、リオネルは奥歯を噛みしめる。


 ちらっと上を見るが、屋根を破壊して回っていた魔鳩の姿は見えない。物音も聞こえなくなったから、おそらくすべての屋根を壊し終えて、休んでいるか宿舎に戻ったのだろう。


 だがそれなら、ミーティアは一人でどこかに残っているはず。


「まさかボランゾンと一対一を決めているわけじゃないだろうな……?」


 なんとなくそんな予感がして冷や汗が流れる。

 さしもの天才聖女も、以前とはまったく別人となった相手と戦うのは荷が勝ちすぎている。ましてどんな異様な力を持っているかもわからないのに。


「せめておれが行くまで耐えろよな、ミーティア……!」


 リオネルは建物内を走るのももどかしく、再び屋根の上まで飛び上がった。

 とにかくミーティアを探して目をすがめながら、建物から建物へ飛び移っていくのだった。

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