第2話-2
「しかし魔術師が五年も前からボランゾンに取り憑いていたとはなぁ……」
「わたくしも驚いたわ。そんなに前から我が神聖国は内側からの
「ああ、そのことなんだけど――」
そのとき、扉が音高くノックされ、二人は思わず目を合わせる。
ミーティアが即座に横になり寝たふりを決め込んだのを確認してから、リオネルは「どうぞ」と扉に声をかけた。
「失礼します、リオネル様。筆頭聖職者のボランゾン様がお見えになっています。ミーティア様のお見舞いにうかがったそうで」
「ああ、通してくれ。おれもボランゾン殿と話したいことがあったから」
扉が開き、取り次いだ女官に案内されて、真っ白な聖職者の衣服に身を包んだボランゾンが入ってきた。
「内密の話をしたいから、呼ぶまで誰も入ってこないでくれ。お茶もいらない」
「かしこまりました」
女官は心得た様子で部屋を出て行く。入れ替わりにボランゾンが入ってきた。
「や、これはリオネル殿。
「いやいや、実にいいタイミングできてくれたよ。こっちに座ってくれ」
リオネルは自分が座っていた椅子をボランゾンに譲る。そして彼が腰を落ち着けたところで、寝台に向け「もういいぞ」と声をかけた。
ミーティアはぱちっと目を開けて、すぐに身体を起こす。
「見苦しい格好ですみません、ボランゾン様」
「――ミーティア!? そ、そ、そなた目覚めておったのか!」
ボランゾンは文字通り椅子から転げ落ちた。
「す、すぐに
「あー、ボランゾン殿、知らせるのはあとでいい。とりあえずおれたちだけで、諸々の擦り合わをしてからひとを呼ぼうぜ。な?」
あわてふためいて出て行こうとするボランゾンの胴をむんずと掴んで、リオネルは彼をどんっと椅子に座らせた。
「む、むむっ、擦り合わせとな?」
「そうそう。このあと、いやでも書記官とか聖職者とか国王とかにあれこれ聞かれまくるからさ。そういうときにスムーズに答えられるように、お互いの視点から答え合わせしておこうってわけ」
リオネルもどこからか椅子を引っぱってきて、ボランゾンの隣に座った。
「おれもボランゾン殿に聞きたいことがいろいろあってさ。あ、とりあえずこうして出歩けるようになってよかったな。おめでとう。目覚めた直後は、意識が混乱している状態だって聞いてたから」
するとボランゾンは恥じ入るように、つるつるの
「いや、本当に、恥ずかしいなどという言葉では済まぬ事態で。まさか五年以上も隣国の魔術師に取り憑かれていたとは思わなんだ……」
「いったいなにがきっかけで、デュランディクスの魔術師がボランゾン様に近づいたのですか?」
リオネルが渡してきたガウンを
「ちょうど五年前、デュランディクスから使節団が訪れたのだ。ひとを乗せるのに特化した
ボランゾンの身体を乗っ取った魔術師――デュランディクスの筆頭魔術師である男は、その使節団の一員としてこの神聖国にやってきていた。
使節団は中央神殿のトップであるボランゾンとも当然のように面会していた。そしてボランゾンは、それぞれ特異な力を持つ同士ということで、筆頭魔術師とふたりきりで酒を飲み交わした時間があったということだ。
「なにかされたとしたら、そのときであろうな。だが使節団が帰ったあともしばらくはなんともなかった。異変を感じ取ったのは、おそらくその一年後くらいだ」
なんとなく、自分の行動で覚えていないということが増えたのだ。出した覚えのない指示が出されていたり、書いた覚えのない書類が出されていたり。
さほど実害がないことだったので、問題視されることはなかったが。
だがそういう状態が三年も続くと、さすがにおかしいと不安になってきたのだ。
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