第4話-4

「とはいえ、ことここに至るまで静観を決め込んでいた神殿がそうそう動いてくれるとは思えないな。まともな聖女を地方神殿に寄越せって言っても『人手不足だ』の一点張りで、誰も派遣してこなかったし。中央神殿って今そんなに聖女がいないのか?」

「いいえ、聖女の数は昔からそうは変わらないわ。今現在も聖女だけで百人、聖職者も五十人が勤めているもの。ただ……とにかく、運ばれてくる重症者の数が多いのよ。魔物と戦って傷ついた騎士がひっきりなしにやってくるの」


 首席聖女として多くの重症者を見てきたミーティアは、当時の状況を思い出して無意識にため息をついた。


「主に南の国境守備に当たっていた騎士たちが運び込まれることが多くて。あのあたりは貴族の別荘街もあるから、どうしても重点的に騎士が投入されるんでしょうけど……」

「重点的に、というか、投入されてもすぐにやられるから、人員の補充が追いつかないんだろうよ。南に行きたがるのは家柄のいいボンボン育ちの騎士がほとんどだからな」


 そして、リオネルはそういう温室育ちの騎士を軽蔑けいべつしているのだろう。あからさまに渋い顔をして鼻を鳴らした。


「騎士学校でも家柄をかさにきて好き勝手やって、単位は金で買ったようなクズばっかりだ。魔物相手に突っ込んでいったところで、ろくな攻撃もできずに返り討ちにされて終わりだろうよ」


 ざまぁみろだ、と言い捨てるリオネルの笑顔は見事に黒かった。


「……わたくし、あなたもいわゆる『家柄のいいボンボン育ち』だと思っていたわ」

「あ?」

「食べ方とか、立ち居振る舞いがきれいだし、顔立ちも整っているもの。貴族の次男か三男だと思っていたわ」


 するとリオネルは口を思いきりへの字に曲げた。


「……否定はしない。確かに生まれはそれなりだ。だが、なんとなく格好いいからとか、将来が安泰あんたいだからという理由で学校に入ってきた奴らとは違う。おれは明確な意志があって騎士をこころざしたし、それに見合う努力をしてきたつもりだ」

「それはわかるわ。強化人間であることを差し引いても、あなたの戦い方は実践的で、とにかく魔物を倒そうっていう気概にあふれているもの。今の実力を身につけるまで、そうとう訓練したのでしょうね」

「……」


 リオネルが驚いた様子でこちらをぽかんと見つめてきた。


「なによ」

「いや、嬉しいことを言ってくれるなと思って」

「思ったままを言ったまでよ」

「ああ、性格的にお世辞せじなんか言う奴じゃないってわかってるからさ。本心なんだなと思ったら、やっぱり嬉しいじゃないか。ありがとうな」

「……」


 たまに出てくる、こいつのこういう素直なところがわたくしは苦手よ、とミーティアはむっつり黙り込んだ。


「そういうおまえだって、今の実力をつけるためにそうとうがんばってきたんだろう、ミーティア」

「そんなわけないでしょう。わたくしは天才よ。努力などせずとも常に上に行けるわ」

「あながち誇張こちょうでもなさそうなところが怖いよなぁ」


 リオネルは楽しげに笑った。

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