第4話-5

「とにかく、ボンボン育ちの騎士がクソ弱いおかげで、北に支援する余裕がないのはわかった。聖女の手が空かないのもな」

「騎士でも聖女でも、応援を呼べたらいいのだけど」


 ミーティアの言葉にリオネルはかすかに首を横に振った。


「聖女は正直、エリートを十人呼ぶより、おまえが一人いてくれたほうがずっと助かる。おまえの負担はそのぶん大きくなるが――」

「わたくしの言葉を聞いていなかった? わたくしは天才よ。そんじょそこらの聖女とは気構えも力もなにもかも違う」

「わかっているさ。ただそんなおまえの疲れを取る係の聖女が一人くらいいてもいいよなとは思う」


 ……それは確かに、ありがたいかも。ミーティアはしぶしぶうなずいた。


「聖女が二人いれば、お互いの疲れや怪我を癒やし合えるものね」

「そうそう。ま、無理な計画なのは話を聞いていてわかった。だが人手不足だろうとなんだろうと、【くい】の修繕はやってもらわないと困る」

「そうね」

「だから、神殿だけじゃなく、国王陛下にも手紙を書こうと思う」

「国王陛下に?」


 目を丸くするミーティアに、リオネルは大真面目な顔でうなずいた。

「聖職者が牛耳ぎゅうじるこの神聖国にあっても、民衆のトップである国王の言葉は、さすがの神殿も無視できないからな」

「確かにね……」

「ただなぁ、手紙が握りつぶされないかだけが心配だ。手紙が先に神殿に届けられたら、一介の騎士と聖女が国王陛下に手紙など不敬! とかクソみたいな理由をつけて、聖職者が封も開けずに手紙を捨てる可能性もあるだろ?」

「ああ、ありそうね」


 筆頭聖職者ボランゾンの顔を思い出し、奴ならやりかねないとミーティアは神妙にうなずいてしまった。


「だから手紙が間違いなく陛下に届けられるような、呪文とかまじないとか、なにか持ってないか?」

「そういうのは聖職者の領域よ……。とはいえ、だからできないと言っている場合ではないわね」


 確かに、国王の言葉ならボランゾンも聞き流すことはできまい。主席聖女であった自分のことは追放できても、だ。


 このサータリアン神聖国では、【神の恩寵おんちょう】の力を持ち、【神樹しんじゅ】を祈りによって守る聖職者と聖女の地位がかなり高い。王国の民をまとめ、政治を行う王侯貴族はその次点という位置づけだ。


 だが王侯貴族の中でも王族はやはり特別な存在で、彼らの意向は神殿側も完全には無視ができないのだ。

 ざっくりとした地位の順位で言うと、一番上が筆頭聖職者、二番目が国王、三番目が聖職者、四番目に国王をのぞく王族と主席聖女が同列で並び、さらにその下に貴族と聖女が同列で並ぶという感じだ。


 あのクソハゲ馬鹿親父……もといボランゾンが神聖国で一番偉いと考えると未だに微妙な気持ちになるが、確かに聖職者としての力はある方なので、そうそう無下にできない。


 国王宛の手紙であっても、ボランゾンがそれに気づいて一言「見せろ」と言えば、周囲の人間は手紙をボランゾンに持って行ってしまう。

 あのボランゾンのことだから、差出人がミーティアと気づいたら、手紙を読まずにビリビリに破って燃やすくらいのことはしそうだ。


(聖職者であれば、受取人以外が開封できないまじないとか、無理に開封したら発動する呪いとかをかけることができるけど……)


 あいにくそれらは聖女の領域ではない。桁違けたちがいの力を持つミーティアであったが、それはあくまで聖女としての力であって、聖職者の得手えてまで扱えるわけではないのだ。

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