第2話-9


「……治った。これで大丈夫なはずよ」


 魔鳩マバトがおとなしくなったのを見計らって集中をといたミーティアは、急いで結界を張り直す。

 セギンが魔鳩の身体をなで、傷口が塞がったのを確認した。


「もう大丈夫なようです。誰か! OKいっぱいの水を用意してやれ!」


 セギンの声にまた騎士が動く。

 リオネルも魔鳩の身体をなでながら、ほかに異常はないか慎重に確認していった。


「こいつ、荷を背負っているな。おれたちへの支援物資か?」


 先に出した手紙には国境の状況と応援が欲しいというむねを記していた。支援物資が欲しいとは伝えていない。

 不審に思いつつ、暴れ疲れた魔鳩がぐったりとしているうちにと思ったのか、リオネルは「荷を解け!」と騎士たちに命じた。


『ギャアアアウ!』


 魔物がハッと気づいた様子で身をよじったが、騎士たちはその背に身軽に飛び乗り、荷箱をくくりつけていた縄を剣で断ち切る。

 ガコン、ガコンと転がるように荷箱が落ちてきて、地面に落ちた衝撃でそのふたが開いた。


「えっ……!?」


 散らばった中身を見た騎士たちが絶句する。リオネルも「はっ……!?」と目を見開いた。

 ミーティアも例に漏れず言葉を失ってしまう。


「これは……!」


 だがそのとき、街をはさんだ反対側から地鳴りような音と悲鳴が聞こえ、全員がハッと振り返った。


「――魔物だ! 魔物が出てきやがった!」


 騎士の誰かが叫ぶ。

 彼の言うとおり、土煙を上げながら迫ってくるのは、蛇のような形をした特大の魔物だ。

 地面を揺らしながら近寄ってくるそれに「いや、規格外のでかさだろう!」と騎士たちも仰天した。


「ちくしょう、やっぱり魔鳩の血が引き寄せたか……!」

「で、でも、今、ここにはがあるのに……っ」


 騎士のひとりが、荷箱から散らばったものと魔物をオロオロと見比べる。


「それなりに距離があるからな。効果がなくてもしかたない。――三人ここに残れ! ミーティア、ここ周辺の結界は最大まで小さく!!」

「言われずとも!」


 ミーティアは急いで結界を小さくする。魔鳩と護衛の騎士だけがすっぽり入る大きさになると、リオネルが一番に飛び出した。


「三人以外は全員おれについてこい!」

「はい!」


 騎士たちもすぐに走り出す。

 リオネルは一度大きく沈み込むと驚くべき跳躍力ちょうやくりょくで飛び上がり、民家の屋根から屋根を伝って、街の反対側へ恐るべき速さで走って行った。


「聖女様もそっちに行ってください! こっちはおれたちだけで大丈夫です!」

「わかった……くれぐれも、それにはさわらないように。あと、風とかで飛んでいかないように、なんとか箱に集めておいて!」

「もちろんです!」


 散らばった荷箱の中身を示して念を押してから、ミーティアも急いで騎士たちが向かった方向へ駆け出した。


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