第3話-3

「もういらないってどういう意味だよ」

「そのままの意味じゃ。解析が終わったので戻しにきたんじゃよ」


 よいしょ、とロードバンは椅子によじ登る。身長が低すぎるせいで聖職者の衣服をずるずる引きずっているのが、なんとも危なっかしかった。


「解析ねぇ……。で、なにがわかったんだ?」

「それがこの国で作られたものではない、ということは間違いないの」

「えっ……」


 さらっととんでもない事実を明かされ、リオネルの手から危うく玉が転げ落ちそうになった。


「どういうことだ?」

「そのままの意味じゃよ。我が国において、なにかしらの力が込められたものというのは二種類に分けられる。【神樹しんじゅ】の皮などから作られた聖具、【神の恩寵おんちょう】持ちである聖職者や聖女が手がけた護符などの二種類じゃ。じゃがその玉はどちらにも当てはまらん」

「じゃ、じゃあ、いったいこいつはなんなんだ?」

「わしの仮説が間違っておらぬなら、それは魔術師が作り出したものじゃ」


 ロードバンは小さな胸を張って答えた。


「魔術師?」

「デュランディクスにいるっていう?」


 リオネルのみならずチューリまで目を丸くして、思わずお互いの顔を見合わせてしまう。


「じゃあこの玉は、魔術師が作り出した聖具だとおっしゃるのですか?」

「聖具というより、呪いの道具じゃの。現にこいつが体内に入っていたことで魔物は巨大化してたんじゃろう? それ系統の技は魔術師の得手じゃて。この国の者に扱うことはできなんだ」


 研究が生きがいだという老聖職者は訳知り顔で、鼻の下からあごまでを覆うもこもこのひげをなでた。


「魔術師がなんで魔物を巨大化させて、我が国の街を襲わせるんだよ」

「それはわしの研究外のことじゃ。そういうのはおまえさんら若人わこうどでがんばって解き明かすがよいぞ~」

「いや、丸投げしすぎだろうがっ」

「ロードバン様はだいたいいつもこんな感じなのよ」


 突っ込むリオネルに対し、チューリはあきらめ顔でやれやれと首を振った。


「そういえば、ここの神殿の聖職者は日和見ひよりみ主義って言っていたな」

「ええ。ロードバン様は日和見というか、研究以外は興味のない方で。もうお一方も上が言うことだけ聞いていればいいという感じで……もういいお年だからほとんどの時間、のんびりお昼寝しているし」

「頼りねぇー……」


 チューリの苦労がしのばれる。これでは彼女一人であちこち回らざるを得ないことになるわけだ。


「むむ、年寄りを馬鹿にしおって。これでも研究者としては中央でも重宝された過去があるのじゃぞ? その他の雑務があまりに多すぎるから、いやになって地方に逃げてきたわけじゃが」

「駄目じゃん」

「いいんじゃ。同期にはボランゾンのような優秀な男もおったからな。わし一人がいなくても中央神殿は充分に回る」

「ボランゾン……聞いたことがあるな。確か中央の聖職者の中でもわりと偉い奴じゃなかったか?」

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