第5話-2

 途端に力の放出が止まり、ミーティアは愕然がくぜんとする。

 すでに顔程度の小ささまで消えかけていた魔術師がにやりと笑った気がした。


 その魔術師が最後っとばかりに、鋭く尖って攻撃しようとしてくる。

 顔めがけて飛んできたそれにミーティアが動けない中――。


 ガンッ! という音とともに、剣の柄頭つかがしらが魔術師の残り香を叩き落とした。


『へぶ……っ!』


 ミーティアは息を呑んで、自分を守るように前に立ちふさがった大きな背中を見つめる。


「リオネル」


 ミーティアが呆然とつぶやいたときだ。

 剣を構えたリオネルが、鋭いまなざしとともに腕を振るった。


 ザンッ! と空気がうなるほどの斬撃により、魔術師の身体が真っ二つに切り裂かれる。


『がっ……』


 魔術師もなにが起きたかわからぬ様子で困惑の声を上げる。

 一方のリオネルは、確かな意志を含んだ声で告げた。


「いいかげん、消えとけ」


 リオネルのその言葉が引き金となったのか否か。


『ギャァアアア――……ッ!』


 耳をつんざくような叫び声を上げて、魔術師の赤黒い思念はざぁっと霧散むさんし……あとには静かな礼拝室だけが残された。




 あたたかな風が吹き抜けて、リオネルの黒っぽい髪が舞い上がる。やれやれと剣を腰にしまったリオネルは、ゆっくり振り返った。


「――無事か、ミーティア?」


 いつもと変わらぬ調子で問いかけてくる彼は、すっかり元気だ。

 だが、その全身や口元を汚す血が、彼の命が一度は尽き欠けた事実をしっかり突きつけてくる。


 リオネル自身も口元がぬるっとしているのに気づいたのだろう。顔をしかめて、袖で雑に口元を拭っていた。そのせいで、よけいに顔中が汚れてしまう。


「よくわかんねぇけど、おれ気を失っていたのか? 一人にして悪かった。大丈夫……」


 リオネルの言葉は途中で途切れる。ふらふらと歩み寄ったミーティアが、倒れ込むっように抱きついたせいだ。


 ぎゅうう……と抱きつくミーティアを、リオネルは驚きながらもよしよしとなでる。


「悪かったよ、心細い思いをさせて。よくわかんないけど、この通り無事だからさ、心配すんな」


「……当たり前でしょう。天才のこのわたくしが癒やしてあげたんだから……」


 彼の胸元に顔を埋めながら、ミーティアは涙で震える声で精一杯告げる。リオネルは「悪かった」とくり返した。


「ん、んンン……?」


 と、床のほうから小さなうめき声が聞こえてくる。背後からも『クー……?』という不思議そうな鳴き声が響いた。

 リオネルが「あ、魔鳩……。あれ?」と驚いた声を発しているのが聞こえてきたが……。


 女神様を宿して力を使った反動か、単純に緊張の糸が切れたのか――おそらくそのどちらもあって、ミーティアはなにが起きたか知るよしもなく、気を失ってばったりと倒れてしまった。

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