第1話-3

「とにかく状況を把握しないとどうしようもない。――魔鳩マバト、こっちに飛んでくれ」

『クー!』

「ちょっと、どこへ行くのよ」


 リオネルは手綱を引くと【神樹しんじゅ】に背を向け、攻撃を続ける王国騎士のほうへ魔鳩を飛ばした。

 騎士たちを飛び越え、その奥に陣取る指揮官たちのほうへ向かう。指揮官たちは全体を見るためか、即席で作られたやぐらのようなものに登っていた。


「ちょっと命綱を切るな。手綱を頼む」

「へっ? あ、ちょっと! 隊長ってばー!」


 部下の叫びを無視して、三人ぶんの命綱をさっさと剣で切ったリオネルは、ひらりと魔鳩から飛び降りてしまう。


 神殿の屋根より高いところから降りたリオネルにさしものミーティアも悲鳴を上げるが、ヨークが「大丈夫です! 隊長、足腰だけは丈夫なんで!」と取りなした。


 事実、開けたところにまっすぐ降り立ったリオネルは、きれいに敷かれた石畳を落下の衝撃でドカアアン! と破壊しながらも、さっさと立ち上がって櫓のほうへ走って行っていた。


「……ただ落下するだけでも、かなりの攻撃になりそうね」

「ですね。ちょっと高度を下げましょう。隊長、たぶん櫓にいるお偉いさんのところへ行くようだし」


 ロイジャがおっかなびっくり座る位置を移動して、手綱をちょいと引っぱった。魔鳩はロイジャの意志を汲んで、ゆっくりと旋回しながら高度を下げていく。

 ちょうど櫓の頂上くらいの高さにきたときには、リオネルはもう櫓の頂上に飛び上がって、きらびやかな衣服をまとった誰かと会話していた。


「さっきの衝撃はおまえか、リオネル! 砲撃でもあったのかと思ったぞ!」

「悪ぃ、だが緊急事態だからしかたないだろ? それより神殿はどうなってんだ?」


 どうやら、あのきらびやかな服装の男とリオネルは旧知の仲らしい。王子様のような格好の男は「まったく……」と毒づきながらも、すぐ状況を説明した。


「見ての通り、三日前から中央神殿に続く門が閉まって、どこからも入れないし、誰も出てこない状況になってる。王城が再三にわたり開門を要請しても、無視してきてな。民からの嘆願もあって、我々が出向いたというわけだ」

「あんたの要請にも応じないのか」

「攻撃すると言ってもだんまりを決め込まれたから、こうして実力行使に出たわけだが……見ての通り攻撃はすべて通らない」


 男は身なりのよさからは想像できないほど激怒した様子で奥歯を噛みしめた。


「それでなくても【神樹】も黒ずんでいて、なにがなんだかという状況だ。聖女も聖職者も姿を見せないから、内部がどうなっているかはまったくわからん」

「王城から中央神殿に通じる隠し通路みたいなのがあるだろ。そこを通るのは?」

「やったさ。だがすべての入り口に土が入れられ、閉ざされている。……壊されていると言ったほうが正しいか。掘り起こすのも攻撃と同時進行でやっているが、今日明日で貫通する見込みはないね」


 吐き捨てた男は、ふと頭上を見て、魔鳩がすぐ近くを飛んでいるのにぎょっとした顔をして見せた。


「おい、なんだあの魔鳩……というか、聖女が乗っているのか!?」


 聖女という言葉に、そばにいた者たちも一斉に魔鳩のほうを向いてくる。


「そこの聖女! 神殿がどうなっているのか降りてきて説明しろ! 神殿と言えど、国王からの要請を突っぱねるとはどういう了見だ!!」

「――やめろ! あの聖女はおれと一緒に、ずっと地方で働いていた奴だ!」


 男の怒号に負けぬ声で、リオネルは怒鳴った。


「何週間かぶりに帰還したら中央がこんな様子で、おれたちだって仰天してんだ! おい、弓矢を向けるなよクソ野郎ども! ミーティアに手ぇ出したらタダじゃおかねぇからな!!」


 弓矢で魔鳩に狙いを定めていた騎士たちが、びくっとした様子で手を離した。


「隊長、怖ぇぇ……」

「怒るとマジで不良全開のしゃべり方になるしな」


 もうちょっと品行方正でいてほしいよな……とヨークとロイジャはぶつぶつつぶやいていた。


「聖女様、ちゃんと魔鳩に掴まっててくださいね。どこから攻撃されるかわかんないし、なんなら結界も張って大丈夫っす」

「え、ええ。これ、わたくし、狙われている感じかしら」


 さりげなく結界を展開しつつ、ミーティアは騎士たちを見回す。リオネルの声で剣や弓を下げたとはいえ、その目はギラギラとこちらをにらみつけていた。

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