第4話-2

「こっちです。散らばった奴もできる限りかき集めました」

「ご苦労。あの状況下でよくやってくれたな」


 リオネルのみならず、起きだした騎士たちもいそいそと荷箱のまわりに集まってきた。

 ふたを開けると、発見したときと同じほどの量が荷箱の中に収められているのが見える。そのうち一つを取り上げ、リオネルは「間違いないな」と眉を寄せた。


「【神樹しんじゅ】の皮だ。こまかく崩れている砂みたいなのも、もとは【神樹】だったものだ」

「うそでしょ、本当にこれ全部【神樹】っすか……!?」


 騎士たちはたちまちざわついた。


「剣のつかにはめ込む宝石をもらったとき、ちらっと見ただけだけど間違いない。こんなに白い木の皮、【神樹】以外にないからな」


 リオネルは手のひら大の皮をそっと持ち上げる。だがつまんだ端からほろっと崩れて、ちぎれた部分がちりのように消えてしまった。

 残った部分を手のひらにそっとせる。それはみずから白い光を放って、ほんのり輝いていた。


「見ての通り、とてももろく、扱いが難しい代物だ。本来ならこんな風に雑に荷箱に押し込んでいいものでもないし、そもそもこんなにたくさんいでいいものでもない」

「こんだけもろいんじゃ、【杭】の中に入っているはずの【神樹】の皮が、ほとんど見当たらなかったのも道理っすね」

「風であっという間に霧散むさんしたって感じだったんだろうなぁ……」


 騎士たちは納得した様子で、おのおのうなずいていた。


「おれの剣に使われている皮なんて、この半分……いや三分の一もないくらいの少量だ。その程度の量ですら『【神樹】から剥いだものだからありがたく扱え、おまえは死んでもかまわんが宝石が嵌まる剣は壊すな、なくすな、もし破損したら命をもって償え』って聖職者に説教されたくらいだぞ」

「うわ……」

「そんな貴重で稀少なものを、なんで魔鳩が運んでたんだ?」

「それだ。そこが大問題なんだ。……もしかしたら、先の街でおれたちに補給を差し入れてくれたあの魔鳩マバト――あいつが背負っていた残り一つの荷箱にも、これと同じものが積まれていた可能性がある」


 リオネルの指摘に、騎士たちも「マジか……」と絶句していた。


「確かに、あのときの荷箱もこれと同じくらいの大きさだったな」

「おれたちがさわろうとしたらいやがっていた。それを運ぶよう命令を受けていたからか……?」

「で、あの魔鳩が向かった先は、あそこよりさらに北……」

「北に連なる山脈の向こうには、デュランディクスがある」


 騎士たちはそれぞれの考えを口に出して推理していく。そうして思い当たった答えに、一様に目を見開いた。


「……まさか、今回の魔鳩もデュランディクスへ行こうとしていたのか?」

「怪我をしたから途中で墜落した感じになっただけで、本当は【神樹】の皮をデュランディクスに運ぶ予定だった」

「なんで外国に【神樹】の皮を運ぶ必要があるんだよ。おかしいだろ、どう考えても」


 騎士たちの顔がどんどん困惑に染まっていく。リオネルも同じ気持ちだった。

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