第1話-2

「もうそこからミーティア様への憧れがめちゃくちゃ募って! でも一方で、嫉妬しっとというか……どうして自分にはミーティア様ほどの力がないのかっていう歯がゆさもすごく大きくなって……!」


 自分以上の天才を前にしたときの典型的な感情だなと、リオネルはこれにもうなずいた。


「だから突然、首席聖女の選抜試験を行うと言われたときは、驚いたけど、勝ちたいとも思ったんです。結果は……」

「……あんたの勝ちだったんだろう?」

「明らかに不正が働いていたのは、言われずともわたしだってわかりましたけれども……っ」


 こぶしを握ってくぅっとうめく彼女は、なんだかんだ言いつつ自分とミーティアの実力差をしっかりわかっていたようだ。


「でも、もともと首席聖女になりたいと思って中央神殿にきたこともあったので、ほんの少し嬉しい気持ちもあって……。本当によくない気持ちだとは思うんですけど……ミーティア様が『あり得ない!』って言って、うろたえるところも見てみたいなぁ~なんて気持ちもあったりして……」

「あんた、なかなか素直な聖女だな」


 そのあたりのみにくい気持ちは、思うことはあっても口に出すことはそうそうないだろうに。


 するとグロリオーサは「懺悔ざんげも含んでおりますので」と重々しくつぶやく。


(聖職者でもない、騎士であるおれを相手に懺悔されても)


 リオネルは胸中で突っ込みつつ、目線で「続けて」と促した。


「なのに、うろたえるどころか、ミーティア様ったら『はぁ?』とかめちゃくちゃ怖い声で言い出すし、ボランゾン様の言葉をめちゃくちゃ論破するじゃないですか! なんだか、ミーティア様に憧れていた部分がガラガラ崩れていく感じがして……こんな性悪聖女に憧れていた自分が馬鹿みたいに思えてきて……!」

「あー……」

「耐えられなくて『さすがに口が悪すぎます』って言ったんですが、だからなに? くらいの対応をされて、ほんっとうに腹立たしくて! 負けたのはミーティア様のはずなのに、試合に勝って勝負に負けたみたいな屈辱感が半端なくてぇ……!」

「……」

「だからわたし、絶っ対にあの性悪しょうわる以上の首席聖女になってやる! って決意をメラメラ燃やしたんです! でも……」


 興奮で声を大きくしていたグロリオーサは、たちまちしおしおとうなだれた。


「実際に、次々運ばれてくる怪我人を癒やすのは本当に大変すぎて……。あまりに大変で、もう限界だと思って、ボランゾン様のところに言ったんですよ。首席聖女はやっぱりわたしには無理です、ミーティア様を呼び戻してくださいって」

「それ、ミーティアが中央を追放されてからどれくらいあとの話だ?」

「一週間後です」

「いや、早すぎだろう」

「ボランゾン様にも突っ込まれました~! でも本当に無理だったんです~!」


 グロリオーサはぴえんと泣きながら、首席聖女の務めがどれほど過酷かを、聞かれてもいないのにべらべら喋りまくった。


 曰く、日の出前に起きてみそぎをしなきゃいけないとか、その状態で【神樹】に祈りを捧げなきゃいけないとか、お偉いさんににこやかに祝福を授けなきゃいけないとか、骨が飛び出しているような重傷者にも笑顔で治癒をかけて速効で治さなきゃいけないとか……。


「確かに、過重労働だな」

「でしょう!? ミーティア様は怪我人の治療を優先して【神樹】への祈りを怠ったと非難されていたので、そちらもがんばろうと思っていました。でも禊ぎって、とにかく寒いんですよ! おまけに祈りまで入れると三時間も取られるんです! これじゃあ怪我人を診るのに支障が出るのも当然だわと納得できました」


 その怪我人を治すのも、完治するというところまではとてもいかず、前の首席聖女を出せー! と相当数の苦情が入ったそうだ。一週間でいやになるのも無理はなかったかもしれない。


「でも、ボランゾン様に言いに行った先で、わたし、とんでもない場面を目撃しちゃって……」

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