第1話-4

「騎士に限らず民衆も全員、自分たちを締め出す神殿にいきり立っています。そんな中に聖女が降りていったら、怪我するどころじゃ済まないですよ」


 いつもふざけている印象が強いロイジャが真面目な顔をして言うから、きっとそうなのだろう。ミーティアは「まさか騎士を敵に回す日がくるとはね」とため息をついた。


「とにかく、神殿の内部の様子がわかんないんじゃ、どうしようもないな。……ひとまず、おれが見てくる」

「おまえが?」

魔鳩マバトなら【神樹しんじゅ】の枝のところまで飛べるし、おれならそこから飛び降りても無傷でいられる。神殿の屋根やら壁やらいくつかぶっ壊せば、外から中の様子もわかるだろうよ。できるようなら門も向こう側から壊すわ」

「……」


 だいぶ物理に寄ったリオネルの提案だ。【神樹】を守る中央神殿を破壊するという趣旨の内容だけに、罰当たりにもほどがあるが……。


(現状、それが一番いい気がする。門が壊れれば騎士たちも中に入れるし、聖職者たちへの牽制けんせいにもなる)


 ミーティアは魔鳩の上から声をかけた。


「その提案に乗るわ。わたくしもリオネルと一緒に行く」


 それに対し、彼女のうしろにいる二人の騎士が「ええっ!?」と声を上げた。


脳筋のうきん強化人間の隊長はとにかく、ミーティア様は危ないって!」

「聖職者たちがどんな悪さしているかも、まだよくわかんないし……!」


 しかしミーティアはきっぱり言った。


「だからこそよ。聖職者や聖女が特殊な力を振るってきた場合、脳筋の騎士たちに対処できると思って?」

「うっ、それは……」

「その点、わたくしは当代一の天才聖女よ。護符も癒やしも結界も――そんじょそこらの聖女を束にしたって勝てないわ!」


 ミーティアは杖をブオンと音がするほど振り回し、巨大な結界を展開してみせる。

 キン! と空気が張り詰める音ともに現れた、ガラスの窓のような結界に、騎士たちがざわっと大きくどよめいた。


「なんだ、この巨大な結界……!」

「こんな結界が張れる聖女がいるのか?」

「……そういえば、ちょっと前の首席聖女は癒やしの力もすごくて、重症の騎士たちをことごとく癒やしたって評判だったな……?」


 まさかその聖女が……? という目で見てくる騎士たちの前で、ミーティアは堂々と名乗った。


「わたくしは先代の首席聖女、ミーティアです。【神樹】の危機を察して地方から戻ってまいりました。元首席聖女として、神殿の異常は見過ごせない。――リオネル隊長とともに、神殿の内部へ進行します!」

「お、おお……!」


 結界と堂々とした宣言がよかったのか、名乗りを聞いていた騎士たちはわっと沸き立った。


「本物の聖女様のお出ましだ! これで神殿の門も開くかも!」


 そんな期待が広がっていき、どこからか拍手まで送られた。

 騎士たちの変わりようにため息をつきながらも、リオネルが「そういうことだから!」と声を張り上げる。


「なんとかして門を内側からぶっ壊すから、それを合図に騎士たちは突撃してくれ! 悪さをしている聖職者がいたら、片っ端から捕らえてくれ!」

「おお――ッ!」

「……いつの間にか指揮官が交代していないか?」


 身なりのいい男が不満そうにつぶやいたが、言葉ほどそう思ってはいないらしい。「頼んだぞ」とリオネルの背を叩いて激励げきれいしていた。


「よし、じゃあ魔鳩、もうちょっとだけがんばってくれよ!」

『クー!』


 魔鳩は誇らしげに鳴いて、少し高度を下げる。

 リオネルが櫓から魔鳩へ身軽に飛び移り(それでも結構な高さがあったため、人間離れした彼の脚力に騎士たちはまたざわついていた)ロイジャから手綱を受け取ると、再び魔鳩を操りはじめた。

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