第4話-1

「――よう、魔鳩マバトの調子はどうだ?」

「あ、隊長、おはようございます。早起きです、ね……違うか。寝てないでしょう? ちゃんと寝てくださいよ」

「騎士があらかた起きたら仮眠を取るって。どいつもこいつも寝ろ寝ろうるさいな」

「だってあんた、なかなか寝ようとしないんだもん」

「むしろ戦地でぐっすり眠れる奴のほうが稀少じゃねぇか?」


 リオネルの言葉をもっともだと思ったのか、騎士は「違いない」とゲラゲラ笑った。

 その声につられてか、自身の羽にくちばしを突っ込んですやすや寝ていた魔鳩が、目をぱちぱちさせながらゆっくり身体を揺さぶる。


『クッ、クー……』

「お、おまえも起きたか。もう落ち着いたか?」

『クー』


 よく調教されている魔鳩なのだろう。リオネルの言葉にうなずくように静かに鳴いた。


「聖女様のおかげで怪我はすっかり治っています。ただ、食事がねぇ~……どうやったって充分な量を用意してやれないし、芋とかも食えませんから、どうしたもんかと」

「だよなぁ。本来は一回の食事で、牛とか豚とかめっちゃ食うんだもんな」


 リオネルもそこは気の毒だと思いつつ、魔鳩の黒々とした羽をなでてやった。


「その割に空腹で暴れることはないから、そのへんも聖女様のお力が効いているかもしれないです。聖女の癒やしの力って空腹をまぎらわせる効力も、確かありましたよね?」

「ああ、あったはずだ。痛みと同じく空腹も苦痛のうちに入るから、そういうのにも効くと聞いたことがある。――つっても、まやかしみたいなものだから、そのうちガタはくるけどな」


 それでも一日か二日、食事なしで過ごせるならそのほうがいい。

 さすがに周辺の街や村を訪ねたところで、人間用に芋や水はもらえても、魔鳩のために牛や豚はもらえないだろう。


「まぁ、その気になれば中央まで一日とかからず跳べるからな、魔鳩の場合。空腹で限界ってなったら、中央に帰すことになるだろうな……」


 リオネルの言葉に、一晩の世話を買った騎士もおずおずうなずくが、実際はそうできないよなという心情が顔にはしっかり出ていた。

 リオネルも彼と同じ気持ちだ。ひとしきり魔鳩をなでたリオネルは「例のものは?」と彼に尋ねた。


「屋内に置いたほうがいいと思い、騎士たちが寝ている広間へ運びました」

「ご苦労。おれはそっちに行くから、交代がくるまで魔鳩のことを頼む」

「了解です」


 強くなってきた朝日を背に浴びながら、リオネルは神殿内の広間へ入った。


「ん、隊長? おはようございます。ちょっとは寝ました?」

「どうせ寝てないでしょう、隊長のことだから」

「ちゃんと寝ないと駄目ですよ~」

「……おまえら、ひとの顔を見るたび寝ろ寝ろと……。おれが不眠症をわずらっているみたいじゃないか。やめろって本当に」


 口元をひくひくさせてリオネルは言うが、部下であるはずのあ騎士たちは「実際、不眠症みたいなもんだよな隊長って」「熟睡しているところ見たことないしな」と言いたい放題だ。それでも部下かと突っ込みたくなる。


 だが彼らの言葉が心配ゆえのものだとわかっているので、リオネルも「ちゃんとあとで寝るから」と律儀に返した。


「昨日、魔鳩が積んでいた例のものを確認しにきたんだ」

「あ、ならこっちにありますよ。そのことで隊長に報告をあげようと思っていたんです」


 まだ眠そうな目を擦りながら、毛布を片付けていた騎士のひとりがすぐ近づいてきた。

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