第2話-2

「聖女様の護符のおかげでさほど苦しくはないけど、視界が悪いのはやっぱり気が滅入るな」

「それな。とりあえず飯の用意だ」


 騎士たちは壊れた民家を今夜の宿に決めて、てきぱきと野営の支度をはじめる。

 ミーティアは野営する場所の周りに護符を貼り、手の空いた騎士から癒やしの力を振るって、彼らの疲労を取りのぞいた。


「保存食は半年先まで保つから、まずは芋から消費だ」

「聖女様、ワインをどうぞ。鍋を温めるついでにちょっと温めたんで、美味しいと思います」

「ありがとう」


 水は貴重なので、道中の飲料は基本的にワインになる。あまり酒に強くないミーティアはコップを両手で持ちつつ、ちびちびと中身を飲んだ。


「国境まではあと二日も歩けば到着するな。ミーティア、今のうちに国境に貼れるような護符を書いておいてくれ」

「それがいいわね。【くい】に負けず劣らず強力な奴を用意しておくわ」

「頼む。ただ……もし【杭】が壊されているなら、国境に到着する前に魔物が雪崩打って襲ってくるだろう。国境に近いところの村も、今頃は魔物の住処になっているかもな」


 地図を広げたリオネルが難しい顔で言ってくる。全員それを覚悟の上で進軍しているが、魔物がいないに越したことはない。【杭】の状態を確認できるまで、あまり出くわさないことを祈るばかりだ。


「大丈夫ですよ、隊長。今のおれたちには聖女様の護符がついています」

「たいていの攻撃とか衝撃はこれでどうにか防げますからね」


 騎士たちが明るく笑う。実際、彼らは効果がほぼ消えてしまった護符を貼り付けた状態で、なんとか魔物と戦闘をくり返していたのだ。護符があれば鬼に金棒もいいところだろう。


「まぁ、そうだと思うが。……だからこそ、ミーティアのことはしっかり守っておけよ、おまえら」

「もちろんです!」


 意気込む騎士たちにミーティアは「自分の身は自分で守れるわよ」と、つい笑ってしまった。

 ――が、実際に国境にたどり着いたら、自分の身は自分で守れても、騎士たちの補佐にまでは回れないということを痛感することになった。




「弓兵は横へ移動! 先鋒が切り込むから援護しろ!」

「はい!」


 そろそろ国境へ着くという場所までたどり着いた途端、前方からうなり声を上げながら魔物がドドドドとこちらに走ってきた。

 その数、ざっと見ただけで三体。どいつもこいつも民家並みに大きく、獅子ししのように獰猛どうもうそうだ。

 だが足音と地面が揺れるほどの振動はさらなる数の魔物が迫っていることを示しており、全員が馬を飛び降りてすぐに臨戦態勢に入った。


「ミーティア! こいつらがより国の内側にいかなように結界を張ってくれ!」

「わかったわ!」


 ミーティアは杖を掲げ、広範囲に結界を張る。それを見た騎士のひとりが「うわ、馬鹿でかい結界だぁ!」と仰天していた。


「右から左まで、果てが見えないほどの結界を張れるとは。さすがミーティア様!」

「どうもありがとう。でも前方を見て! 迫ってきているわよ魔物!」

「うわっとと!」


 感心していた騎士は、先頭の魔物が毒針を噴出してきたのを見てあわてて避けた。

 ミーティアは巨大な結界を維持しつつ、自分の周りにも結界を張って、とにかく魔物に襲われないようにする。


 それを、地面から高く跳躍ちょうやくしたリオネルが「いいぞ!」と鼓舞こぶした。


「悪いがこの数の魔物相手じゃ、おまえの守りに人員を割けない! 自分の身は自分で守ってくれ!」


 宙を舞いながら叫んだリオネルは、先頭の魔物の背に危なげなく降りる。そしていつかと同じように、剣を魔物の目に叩き込んだ。

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