第2話-1
荷物の積み込みが終わり、翌早朝、騎士とミーティアは国境に向け旅立つことになった。
「ずいぶん長く世話になった。もてなしてくれてありがとう、
騎士を代表したリオネルの挨拶に、見送りに出てきた街の人々は感極まった様子でうるうると目を潤ませる。
一番前に立つ街長も似たような表情で、深々と頭を下げていた。
「騎士様たちや聖女様がいらしたときに、無礼な態度を取ってしまったことを改めてお詫びいたします。聖女様はもちろん、騎士様たちも畑仕事や柵の修理、家畜の世話を手伝ってくださって、感謝の言葉もございません」
「一週間近くいさせてもらったんだ。できることはやらないと。それに、身体を動かしていないと身体がなまるからな」
リオネルの言葉に、騎士たちも「そうそう」と明るい笑顔でうなずいていた。
「聖女様も、本当にありがとうございました」
「こちらこそ、客室を使わせてくださってありがとう。……護符や祈りの効果はだいたい一年です。それに皆さんの栄養失調は、わたくしの癒やしの力があっても治せるものではないわ。身体が元気なうちに、備蓄をなるべく増やしておくことをお薦めします」
街長は真面目な顔でうなずき、再び頭を下げた。
「皆様の道中が無事でありますように、我々もお祈りしております」
「ありがとう。――よし、出発だ!」
「おおーっ!」
リオネルの号令に騎士たちが拳を上げて応じる。おのおの馬を引いていく中、ミーティアは子供たちにわっと囲まれた。
「聖女さまぁ、本当に行っちゃうの?」
「元気でね。魔物になんかやられないでね」
「絶対に絶対にまたきてね……!」
たくさんの子供に抱きつかれて、ミーティアは自分でも驚くほど感動して、ついうるっときてしまった。
「……ええ、また必ず寄らせていただくわ。みんなも元気でね」
一人一人を抱きしめて、ミーティアは大きく手を振って子供たちと別れる。
街の人間も名残惜しそうに手を振ったり「またきてくださいー!」と声をかけたりしていて、盛大な見送りには騎士たちもひどく驚いていた。
「中央を出るときだって、あんなふうに声をかけてもらうこともなかったのになぁ……」
「国王陛下からありがたい激励のお言葉をもらったとはいえ、そのあとは勝手に行けって感じだったしな」
「おれ、ちょっとうるうるしてきちゃった……」
「言うな。おれまでなんか泣きたくなってくる」
いい年をした騎士たちまで感激で目を潤ませているのに、馬にまたがったミーティアはくすくす笑ってしまった。
「感激するのはいいが、これから向かう先は国境だぞ。おまえら、もっと気持ちを引き締めろ!」
「はい!」
先頭を行くリオネルの言葉に、騎士たちはしっかりとした声を返した。
街が見えなくなるところまで部下に感傷に浸らせてから、改めて活を入れる彼は、隊長としても人間としても優秀なんだなと素直に感心した。
「さぁて、国境のあたりはどうなっているかな。一日も歩けば
――リオネルの言うとおり、夕方になる頃には、あたりの空気はどんより濁って、大要の光すら遠ざかったように思えた。
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