第4話-7
「……リオネル……?」
彼を中心にじわじわと広がっていく血の赤さを見て、ミーティアは目を見開いたまま呆然としてしまう。
そしてリオネルがピクリとも動かなくなった途端に……心臓をひと突きされたはずのボランゾンが、ごそごそと身動きをはじめた。
「うそっ……」
ゾッとしたミーティアは杖を構えるのも忘れて、ゆらりと立ち上がったボランゾンを
「ふ、ふふ、この身体が乗っ取られたものだと聞きながらも、迷わず心臓を突いてくるとはたいしたものだ」
血で濡れた聖職者の衣服を見下ろし、軽く肩をすくめてから、ボランゾンは首をポキポキと鳴らして伸びをする。
思いがけず寝過ごしてしまったとでも言いたげな仕草に、ミーティアは身体の芯から震え上がった。
「どういうことなの……あなた、リオネルになにをしたのよ!?」
「こやつになにかした覚えはない。ただ自分に術をかけていただけよ」
「術……!?」
「致命傷を受けたとき、傷を負わせた者にそれが跳ね返るように、とな」
「……っ!」
その言葉が確かなら、ボランゾンの負った傷はそのままリオネルに移行したということだ――!
「リオネルッ!!」
ミーティアは血相を変えてリオネルに駆け寄る。
だがボランゾンはそれを見過ごさず、波動を放ってミーティアの身体を吹き飛ばした。
「きゃあああ――ッ!」
身体ごとがれきに突っ込んでしまって、ミーティアは悲鳴を上げる。
ギリギリのところで結界を張れたから無傷だったが、吹き飛ばされたことは単純に衝撃で、心臓がどくどくといやな鼓動を刻んできた。
それ以上に、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かなくなったリオネルのことを思い出すと、指先からざぁっと全身が冷えていって、震えが止まらなくなってしまう。
「ふはっ、はははっ! 力のある聖女と言えど、中身はやはり小娘。好いた男の死に動揺するのは仕方あるまいよ」
死――ミーティアの心臓がまたどくんといやな鼓動を打つ。
(死……死んだなんて、絶対にうそ。リオネルが死ぬなんて……!)
杖をぎゅっと握りしめて、ミーティアはなんとかがれきの山から
――自分は聖女だ。命があるなら、どんな傷だって絶対に治せる。治してみせるんだから――!
「無駄だ。もうこの男の心臓は止まっている。というより、心臓ごと破壊されていると言ってもおかしくはないな。なにせあの高さからの落下攻撃だ。無事では済まん」
ボランゾンは楽しげに笑い、破壊された祭壇の向こうへ
「わたしが【
(ふざけるな……っ)
ミーティアはなんとか杖を振って、自分の上に積もるがれきを結界で弾いて遠ざけていく。
だが折り重なったがれきのあいだに怪我をした足が挟まってしまったようで、どうやっても抜けない。出血も多いのか、頭がぐらぐらして息が上がってきた。
がれきを避けるあいだも、衝撃で新たながれきが落ちてきたり壁が崩れてきたりと、どうにも上手くいかない。
(こんなところで足止め食っている場合じゃないのに……!)
こうしているあいだにも、リオネルは……! そう思うと、これまでまったく気配のなかった涙がぼろっと落ちてくる。
(泣くな、泣いている場合じゃない! リオネルを助けられるのはわたくしだけなんだから……!)
「うぐ、ぐぅ……!」
足全体が痛くて砕けそうだ。でもなんとか引っぱり出さないと……!
そのときだ。どこからか、ゴー……という飛行音が聞こえてくる。
覚えのあるその音にハッと目を開いたときだ。
『クルッポ――ッ!!』
ものすごい勢いで、突き破られた天井から
「っ!?」
今まさに【神樹】の皮を剥ぎ取ろうとしていたボランゾンは、新たに突っ込んできたなにかに
次のときにはまた盛大な衝撃音をとどろかせて、魔鳩がボランゾンを【神樹】に押しつけるように潰していた。
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