第三章

第1話-1

 夕食の時間にはミーティアも寝台を離れられるようになって、街長まちおさの好意で晩餐ばんさんが用意されることになった。

 じっくり煮込んだ羊肉のシチューと焼きたてのパンというメニューは、辺境ではご馳走ちそうに違いない、手の込んだ品々だった。


「中央にいらっしゃった聖女様にとっては、もの足りない食事だと思いますが」

「とんでもないわ。お肉がよく煮込まれていて本当に美味しいもの。どうもありがとう」


 テーブルの向こうで恐縮する街長にほほ笑みかけると、街長のみならず隣に座っていた彼の娘も、うっすらと頬を染めた。

 それを見て、ミーティアの隣に座ってパンを食べていたリオネルが軽く肩をすくめる。


「普段のおまえの性格を知らないと、危うくだまされそうになる笑顔だな」

「騙されるとは人聞きが悪いわね」

「それくらい、完璧に優しい聖女様って感じの笑顔だったからさ」

「失礼しちゃうわ」


 歯に衣着せない二人の会話を、街長も娘もぽかんと見つめていたが、やがて小さく噴き出していた。


「お二人は仲がよろしいのですね」


 ミーティアはすましたまま答えた。


「知り合ってまだ数日ですから、なんとも言えないわ」

「ま、まぁまぁ。おかわりはいかがですかな? いくらでも召し上がってください」


 素っ気ないミーティアの答えになにを思ったのか、街長が取りなすように声をかけてきた。


 とにもかくにも食事が終わり、再びゆっくり眠ると、翌朝にはもう動けるほどに回復していた。

 リオネルが「念のためもう一日療養していろ」と言ってきたので、ひとまずゆっくりしたが、一日なにもしないのもなかなか苦痛なものだった。


 なので翌日には聖女の服を着込み、杖を手に街へ出る。

 ミーティアの姿を見つけると、街の者は「あ、聖女様」「おはようございます!」と進んで声をかけてくた。


「聖女様、これ、さっき採れたカブです。聖女様にあげます」


 中には採れたての野菜を差し出してくる者もいる。子供たちは特に羨望せんぼうと興味の入り交じった瞳でミーティアを見つめてきた。


「まぁ、ありがとう。でも気持ちだけいただいておくわ。朝ご飯をたくさん食べたから、お腹いっぱいなの。あなたたちが持ち帰って、おうちでいただきなさいな」

「はーい!」


 収穫した野菜を手に楽しげに家に戻る子供たちを見送り、ミーティアはその後もゆったり街を回って、自分の癒やしの力がきちんと効いていることを確かめた。

 井戸の水がきれいなことを確認したり、死者のために墓所で祈ったりしながら過ごして、さらに三日が経った頃。


 気持ちよい晴れの午後。上空からゴーッという大きな音が響いてきて、ミーティアのみならず、街の者を手伝って畑仕事などをしていた騎士たちもハッと顔を上げた。


「――中央からの魔鳩マバトだ! 支援物資を運んできたのか!?」


 騎士のひとりが大声で叫ぶ。そのあいだも、飛んできた豆粒ほどの大きさだったそれは、ゴーッと音を立てつつ徐々に高度を下げて、こちらにやってきた。

 騎士たちが「広い場所へ誘導だ!」と叫び、急いで街の外へと出て行く。ミーティアもそれを追いかけた。


 集まった騎士たちが慣れた様子で円を作り、飛んでくるそれを手招く。それはやがて鳥の形に見えるようになり、ほどなく、それなりの風圧を巻き起こしながら、地面にすべり込むように降りてきた。


「わぁ、大きい鳥ー!」


 興味津々でやってきた街の子供たちも歓声を上げる。

 降りてきたのは、人間の二倍はあろうかという身長と、大人を五人は乗せられる大きな身体を持った鳥だった。

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