第1話-3

(いいおうちの出なら、あれこれ融通ゆうづうしてもらえるのは納得だわ。でも支援はこのところ途絶えていたとリオネル自身は言っていたし……なんだかおかしな感じね)


 とはいえ、支援を願い出ていた品々が無事に届けられたのはいいことだ。


「もう一個の箱も降ろしちゃいますね」


 騎士のひとりが、魔鳩マバトの背中にもう一つ小さな包みがくくりつけられているのを見つけて、それを取ろうとする。

 しかし――。


『ギャアアウ!』


 突如、魔鳩がいやがるように身をよじり、大きな翼をはためかせた。突然のことで、近くにいた騎士が何人か翼に打たれてひっくり返る。


「うわっ! い、いきなりどうした!」

「危ない、離れろ!」


 騎士たちの困惑する声にリオネルの命令が重なる。

 だが彼らが離れるより先に、大鳩は二度、三度と大きく羽ばたき浮き上がった。そしてあっという間に上空高くへ飛んで行ってしまう。


 バサバサという羽音がゴーッと言う飛行音に代わったのはすぐあとだ。あっという間に豆粒ほどの大きさになって飛んで行った魔鳩を、全員がぽかんとした面持ちで見送ってしまった。


「……おい、翼に打たれた奴ら、大丈夫か?」


 まっ先に我に返ったリオネルが倒れた騎士たちに駆け寄る。ミーティアもそばにいた子供たちが無事であることを確認すると、杖を手に急いで駆け寄った。


「あ、大丈夫です。聖女様の護符のおかげで傷一つありません」

「いきなり魔鳩に飛び上がられて、心臓のほうはひっくり返りそうですけどね」

「違いない」


 騎士たちは安堵もあって明るい笑い声を漏らした。


「無事ならいい。しかし……あの荷物、おれたちの支援じゃなかったのか?」


 魔鳩が飛んで行った方角を見やって、リオネルが不思議そうに首をかしげる。騎士たちも同じような顔になった。


「ほかの部隊に届けに行くんですかね? こっから北は、おれたちの隊以外はいないはずなんですが」

「言われてみればそうだよなぁ」


 ミーティアも同意見だった。が、魔鳩が飛んで行った方角を考えて、ふと思いつく。


「もしかしたら……山を越えて隣国に行く予定なのかもしれないわ」

「えっ。隣国って言うと、デュランディクスですか、聖女様」

「ええ」


 ミーティアはしっかりうなずいた。

 そのとき、遠巻きに見守っていた子供たちがおずおずと集まってきた。


「聖女様、だいじょうぶ?」

「そのデュラなんとかって、なんのことなの?」


 抱きついてきた小さな子供をよしよしとなでながら、ミーティアは質問してきた子に答えた。


「デュランディクスは北の山脈を越えたところにある王国の名前よ」

「……えっ!? サータリアン神聖国以外にも国があるの?」


 仰天する子供たちに、ミーティアは「そうなのよ」とうなずいた。


「この大陸には八つの国があって、そのうち五つには、我が国の守り神と同じ【神樹しんじゅ】があるの。でもデュランディクスにはないのよ」

「えー!? 【神樹】がないと、きれいな水が飲めないんじゃないの?」


 子供たちがさらにびっくりした顔になる。ミーティアは説明しようとしたが、リオネルに止められた。


「こっちに馬を連れてきて支援物資を積み込むから、子供たちをそばに置いておくのは危険だ。悪いが、話は別の場所に移動してやってくれ」


 リオネルの言うとおりだ。興奮した子供たちに、馬が不機嫌にならないとも限らない。

 ミーティアは「じゃあこっちでお話ししましょうね」と言って、子供たちを引きつれて街の広場へと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る