第2話-2

「何度頼まれようとも無理なものは無理なのです。どうかご容赦ください」

「……」


 リオネルとセギンは思わず顔を見合わせる。

 街長まちおさの言うこともわからないでもないのだ。この街には現在、国境付近の村々から逃げ出してきた者たちも滞在していて、街の大きさに対し人口がふくれ上がっている。そのため水も食料も足りていない状態なのだろう。


 暮らしぶりが厳しいのは彼らの身なりを見ればすぐにわかった。街長ですら砂にまみれた服を着ているし、物陰からこちらを見ている子供たちの格好もひどいものだ。そして、誰も彼も痩せていて顔色が悪い。


 ちら、と周囲を見てみれば、乾いてひび割れた土にしなびた葉っぱが並んでいるのが見える。地面に栄養がない状態だから、作物も上手く育たないのだ。


(水は好きなだけ持っていっていいと言ってくれるだけ、ありがたい状況ではあるがな……)


 あきらめて水だけ確保し、もう少し中央に近い街に移動するべきかもしれない。

 だがそうなると国境から離れてしまうだけに、また戻ってくるのが面倒だ。ミーティアの護符を貼ったところは安全とはいえ、それ以外のところから魔物が侵入し、この街を襲わないとも限らない。


(ミーティアの護符も、紙の量が持ってきたときの半分に減ってしまったというから、乱発はできないし……)


 どうしたものかとため息をついたときだ。


「――街長の方、こちらには聖女や聖職者は駐在していないのですか?」

 りんとした少女の声が聞こえて、リオネルはハッと振り返る。そこには馬から降りてきたミーティアが杖を手に立っていた。


「え、ええ。地方第五神殿から逃れてきた聖女たちがちょっと滞在していましたが、自分たちもいい年だから助けにはならないと言って、中央に向かっていきました」


 そのときのことを思い出したのか、街長の顔にははっきり嫌悪感が浮かんでいた。

 これだけ顔色が悪い人間と痩せた土地があるのに、癒やしの力一つ振るわず中央へ逃げられたら、そういう顔にもなるだろう。


「あなたも聖女様とお見受けしますが」


 おかげでミーティアにかける言葉もとげとげしいものだ。

 にらむと言っても過言ではない面持ちで見つめてくる街長に、ミーティアは「ええ、そうです」と気負いなくうなずいた。


「今、わたくしはこちらの騎士団と行動を共にしています。彼らは国境で巨大な魔物を相手に勇猛果敢ゆうもうかかんに戦っておりました。彼らが国境で踏ん張っているからこそ、民が安心して暮らせているというのは、街長様もおわかりかと思います」

「ええ、ええ、無論、わかっておりますとも。ですがそれと食料の提供とは話が別で……」

「そうおっしゃる街長様のお気持ちもわかります。ですから、いかがでしょう。食料をはじめ、いくつかの物資を支援していただけるなら、そのお返しに、わたくしが街の人間全員を治癒し、土地に祈りを施し、外壁に護符を貼ります」


 ミーティアの提案に、街長のみならずリオネルも思わず息を呑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る