第八十四時限目

「大丈夫だけど…」




「なら笑ってい?」




「は?」




「ダッハッハッハ…!!!!」






あたしの返答も待たず、拓が急に爆笑し始めた。






「え、何よ?」




「俺…は、初めて目の前で女にゲロ吐かれたっ…!」




「んなっ…!仕方ないじゃんっ!」




(あたしだって好きで吐いた訳じゃないし)



「しかも…(笑)」




「だから何っ!?」




「…電柱に片手つくなよ…っ(笑)」






そう




あれはコントみたいだった。




あたしもテレビで何度も見て笑った事があるコント。







「最悪っ!!普通笑う!?」




「お前あのコント勉強したの?(笑)」




「するかっ!!」



あたしは恥ずかしさで顔が真っ赤




方や拓は笑い過ぎて顔が真っ赤






「やっぱお前学校帰れっ!」




「いいからいいから!酔っ払い放って置けないし(笑)」




「だから違うっての―!!」




吐くだけ吐いて元気になったあたし。







それでも、こんなじゃれあいが懐かしく思えて不謹慎ながらも嬉しかった。









拓がやっと落ち着いた頃




遠くから学校のチャイムが聞こえた。







「授業終わったな」




「うん、拓本当に戻らなくていいの?今なら間に合うんじゃない?」




「ん―…、面倒だからいいわ。」




本当はあたしだって、もっと拓とこうしていたい




勿論やましい気持ちなんか無い




ただ、『友達』としてでいいから側にいたかった。



でも……







「あっちゃん…知ったら嫌がるよ…」




「嫌がんねぇよ」




「絶対嫌がる!」





「…あのさぁ」




あたしがしつこく言ったからか、拓が呆れた様にため息をついた。





「お前、気にしすぎ。」




「違うよ、普通みんな嫌がるでしょ?」




「お前はあいつの後輩だぞ?これ位でグダグダ言わねぇって。」




「でも…」




「しつこいなお前、俺がお前の側に居てやりたいんだよ!」






「え…?」







会話が止まった。







(今のはどーゆう意味?)




きっと数秒の沈黙




でも、あたしにとってはとても長い沈黙に感じる。




(勘違いしちゃいけない、拓にはあっちゃんがいるんだから…)




『今のこの時間を大切に使いたい…』





そう思い、他の話題を切り出そうとした時




拓があたしよりも先に沈黙を破った。







「お前、学校で何あった?」




「え?」




「チャリや荷物忘れる位学校に居たくなかったんだろ?」




「そういえば自転車も忘れてた…」




「桂太に…何か言われたのか?」




「何で…?」




「…教室から見えたから。」




(見てたんだ…)




「何言われたんだよ?」





この様子だと、拓にあの噂はまだ届いていない。





「別に?バンドの件でちょっとね。」




「じゃ何で泣くんだよ?」




「泣いてないよ。」




「嘘付け」




「拓しつこい、拓に関係ないじゃんっ。」




「お前1人で溜め込んでねぇか?」







優しくしないで




心配しないで…




拓にとっては何気ない言葉でも




バカなあたしはまた胸がざわついてしまう。






「全然溜めてないよ?ってか何であたし帰るの分かったの?」




「いや…桂太が…」




「桂太君?」




「桂太が…お前ん所ちょっと行けって…そしたらお前真っ直ぐ下駄箱向かうからさ…」




「別に…ただ何か今日は帰りたかっただけ。」




「俺に言えねぇの?」



「拓に言っても解決しない。」




「何それ、ムカツク…」







言えない




言いたくない




あんな噂を自分から拓に言うなんて絶対にしたくない




それに…




あんなメールが来た事も…


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