第五十時限目
その後、敦子先輩が連絡してくれていたのか、お母さんが到着。
「何やってんのっ!!」
病院中に響き渡る怒鳴り声。
「すんません…」
「インフルエンザ治った次は風邪?いい加減にしてっ!」
点滴の2時間の内、1時間はお母さんの説教。
「結芽っ、聞いてんの!?」
「はいはい聞いてます」
そしてなんやかんやで点滴が終了し、あたしは拓と敦子先輩の姿を探した。
「結芽っ!」
「あっちゃんっ」
敦子先輩は待合室で本を読みながらあたしを待ってくれていた。
お母さんが会計を済ませるまでの間、あたしは敦子先輩と話をする。
「結芽、ごめんね…」
「何で?」
「今日…」
泣きそうな顔の敦子先輩。
「その話しは今度ゆっくり聞くよ」
「あ、結芽疲れてるもんね…ごめん」
「ねぇ拓は?トイレ?」
「拓はもう帰ったよ」
「そっか…帰ったんだ…」
なんとなくホッとしたあたし。
「結芽、あたし拓から伝言頼まれてるんだけど」
「何?」
「これ言えば分かるからって」
敦子先輩から伝えられた瞬間
あたしはいつ帰ったのかも分からない拓の跡を追い掛けていた。
「ちょっと結芽っ、何処行くのっ!?」
病院の門を出たすぐの所で、あたしは敦子先輩に腕を捕まれた。
「拓に謝らなきゃっ…、きっと拓あたしの事怒ってる…」
「拓なら、結芽が点滴始まってすぐに帰ったよっ!結芽、あんた熱あんの自覚してる!?」
「大丈夫だよ…熱なんか…」
「肩で息してんじゃんっ!ただでさえ夜で寒いんだよ!?とにかく今日はもう無理しちゃ駄目っ!!」
「別に熱あるから寒くないもん…」
確かに体は重い。
ほんのちょっとの距離を走っただけなのに、まるでマラソンを終えた直後みたいに膝が笑う。
敦子先輩に駅まで行く許可を取ろうと試みたが勿論大反対され、結局あたしは拓を追うのを諦めた。
「結芽…」
「何?」
「体調が大丈夫なら少し結芽ん家行ってもいい?」
あたしの家は、この場所から徒歩10分以内。
「いいよ」
この後、会計(夜遅かったのでお金を置いて来ただけ)を済ませたお母さんが出てきて、3人で自宅へ帰った。
家に着き、お母さんが用意してくれた夕御飯をあたし達は食べた。
「あっちゃんも沢山食べてね。あんたも薬飲まなきゃいけないんだからさっさと食べなさい」
あたしは拓の事で頭が一杯であまり食が進まない。
「お腹減ってない」
「じゃぁお粥でも作る?」
「いらない、そこのバナナでいい、頂戴」
渡されたバナナを手に取り剥いてみると、見事に半分腐りかけ。
「あ゛…バナナびちびちやねん…」
「結芽…似てないから」
ホカホカの顔をしてる病人のあたしに鋭く突っ込む敦子先輩。
「え?何それ?」
半分キレ気味のお母さんが先輩に聞く。
「あるアニメのモノマネなんですけど…多分話すと長くなるんで…」
「そうなの!?まったく…そんなシャレ言う元気あるなら救急車なんか乗らないでよねっ!」
「シャレじゃなくてモノマネだもん…」
夕食を終え薬を飲んだあたしは、先輩に今夜はもう遅いから泊まって行く様にしてもらい、そのままあたしの部屋でまったりする事にした。
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