第五十一時限目
「あっちゃんも明日には風邪っ引きだね(笑)」
先輩は、制服からあたしが貸したスウェットに着替え始めた。
「変なのも移りそうだけどね(笑)」
「何、変なのって…」
「別に~」
「言わないとカンチョーするよ!?」
「熱あるあんたに負ける訳ないでしょっ」
「どうかな~?あたしのカンチョー痛いぞ~っ」
あたしの挑発を完璧無視し、自分のペースで着替え終わった先輩は呆れ顔であたしに言った。
「こーゆう所、そっくりね」
「誰と?」
「拓の他に誰がいんのよ…」
今日は無理矢理にでも忘れようとしていた人の名前。
「…似てないよ…」
「そっくりだよ?変に強がる所とか、理解するまで時間かかりそうな事言う所とか」
「それ、いい所じゃないよね…?」
「さぁ…端から見てれば楽しいけどね」
先輩はお母さんが用意した布団に横になり、携帯をいじりながら続ける。
「でも…だからかもしれないな」
「何が?」
「あたしがあんたを大嫌いになれない理由…」
「は?」
「いや、あたしが拓を大好きな理由かな…」
「あっちゃん…?」
「結芽、ごめんね」
先輩のこめかみに涙が流れる。
「酷い事沢山言ってごめん。でもさ…あたし結芽と拓が仲良くしてる所見てられなかったんだ」
「うん…」
「何で結芽は良くてあたしは駄目なんだろうって…考えれば考える程イライラしちゃって」
初めて見せる敦子先輩の弱い一面。
あたしと同じで人前で泣くのが大嫌いな人。
そんな人が、あたしなんかに自分をさらけ出してくれている。
それが、あたしにはこんな状況ながらも凄く嬉しかった。
「拓はさ、あんたとじゃなきゃあんなにバカしないんだよね。あんただから安心してバカやってられるんだよ」
「……」
「あたし、振られちゃったからさ…拓に」
「え…っ!?」
先輩は携帯を閉じ、体勢を仰向けからうつ伏せに変える。
「『俺好きな奴いるんで先輩とは無理です。』って…ズバッとだよ?さすがに堪えたね(笑)」
「いつ?いつ言われたの?」
「結芽が点滴始まる辺りかな…でも、あたし聞いたんだ~」
「何て?」
「『好きな奴って結芽でしょ?』って」
胸がズキズキする。
「拓は…何て…?」
敦子先輩は、テーブルの上にあった輪ゴムを手に絡み付け、あたしに飛ばした。
「『完全な片想いです』って、笑ってたよ…」
さっきの過呼吸の時とは、また違った胸の苦しみがあたしを襲う。
「結芽…あんた拓が好きなんでしょ?」
「……」
「まだ嘘つくの?」
「まだ……」
「ん?」
「まだ…分かんないの」
本当は気付き始めている…
自分が拓を好きかもとゆう気持ちに…
でも、あたしは今まで友達から恋愛に進展するケースが無かった。
あたしはいつも最初から恋愛モードで入っていくタイプ。
だから、今回みたいにいつもいつも喧嘩ばかりしていた拓と恋人関係になるなんて…
これからどう接すればいいのか…友達から恋人になった時どう変化したらいいのかあたしには考えもつかなかった。
「結芽は拓が嫌い?」
あたしと同じ目線に座り、優しく話しかけてくれる先輩。
「嫌いじゃない」
「拓と一緒にいて嬉しい?」
「嬉しい…かな」
「結芽は、拓が好き?」
拓を友達として…
拓を異性として…
「あたしは…」
初めてキスされた時とは違う今日のキス。
勿論驚いたけど
最初と違うのは
拓にキスされたのが嬉しかった事。
抱き締められた拓の腕の中がとても居心地が良かった事…
「あたしは…拓が好きだよ…」
好きな人を想いながら流れるあたしの涙。
「あっちゃ…ごめ…」
敦子先輩の両腕にしがみつき、声を押し殺して泣く情けないあたし。
全てを先輩のせいにしてた。
「あっちゃんが好きだから」
「あっちゃんが拓を好きだから」
「あっちゃんの為だから…」
そんなのは全部言い逃れ。
本当は凄く凄く怖かった。
あの人の時みたいに…
尚太の時みたいに、好きで好きでしょうがなくて
それでも上手く行かずに『友達』でさえもいれなくなってしまう。
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