第五十二時限目

友達でさえいれば、ずっと傍にいれるし笑っていられる。




一番にはなれないけれど、拓の中のあたしは消える事は無いって…





「大丈夫?」




酷いおえつと熱で更に顔が赤いあたしに、先輩が優しく背中を擦ってくれる。




「ごめん、平気…」




「気持ち伝えなよ。拓喜ぶよ!?」




「何で…あっちゃんはどうすんの??」




苦笑しながら先輩が言った。




「あたし、立ち直り早いんだよね(笑)今思えば、拓みたいな能無し世話してくの大変だしっ(笑)あんたに譲るっ!!」




溶けていくあたしと敦子先輩のわだかまり。



あたしが悪いのに




往復ビンタされても仕方ない事してるはずなのに…






鼻垂れなあたしは、勿論鼻垂れ。




「うわっ!あんた鼻水顎まで届いてるっ!」



「ティッシュ…」




なのにこんな時に限ってティッシュは空。



「ティッシュ無いっ!あわわわっ…!結芽汚いっ!」




「あっちゃん…」




「何!?」




「ワイシャツ貸して」




「は?何で?」




「仕方ないからワイシャツで鼻かむよ」




「あんた最高のバカじゃない?」




「エヘヘ…」




「笑うと口に入る~っ(笑)」






今は、これでいい。




もう誰にも迷惑かけたくない。






それから、先輩はあたしと違って明日も学校の為、先にお風呂に入り早めに就寝した。




(はぁ…)




あたしも今日は疲れた。




でも目を閉じると思い出してしまうあの言葉。





『リセットする』






拓が敦子先輩に託した言葉。




きっともう手遅れ…




でもそうさせたのは間違いなくあたし本人の責任。







眠れそうにない夜。




あたしは柵を飛び越える拓羊と懸命に闘い、数えるのに疲れた朝方




あたしはようやく眠りについた。



風邪で学校を休み始めてから3日目の朝。




「熱下がったなら早く学校行きなさいっ」




心地よい眠りの中、お母さんの怒鳴り声で目が覚めた。




熱は下がったがまだ本調子じゃなかったあたしは、あと3日位は休む予定だった。




「まだ具合悪い…」




「そーゆうのを仮病ってゆうの!昨日晩御飯おかわりしてたじゃないっ!これ以上休んだら2年生に上がれないわよっ!」




「ねぇ、何でそんなに朝からうるさいの?」



「あんたが怒らせてんでしょっ!」




「怖っ…、さてと、仕方ないから学校行こ」



今日、お母さんはいつもより早い出勤。




あたしが支度をトロトロとしている間に、さっさと出掛けて行ってしまった。




「なんだ…お母さんいないじゃん」




こうゆう時に素早く働くあたしの悪知恵。




「今日休もっ」






1階にいるじいちゃんは、あたしが休もうが何しようが我関せずの人間。



あたしはせっかく着替えた制服から私服へと更に着替え、母親と偽り学校に休みの連絡を入れた。







そして昼過ぎ…




だらだらと過ごしていたあたしに、菜緒からメールが届いた。




《まだ具合悪いの?》



《少しね、でも明日からは行くよ!寂しいんだろ~》




送信し、菜緒からのメールを待つ。




でもいくら経っても返事が返って来ない。




(あれ、おかしいな…いつもなら最後まで付き合ってくれんのに)



時間を確認してみても、今はまだ昼休み。




「電話してみよっ」




携帯を開き、電話帳から菜緒の番号を探していた時…




『メール受信』




「あっ、多分菜緒だ」



あたしは送られてきたメールを開き、内容を確認した。




《今、あたしと桂太早退した。今から駅に来て!絶対命令ね》




「はぁっ!?」




《何で!?》




(なんとなく嫌な予感…)




《いいから早く来い 桂太より》




菜緒の携帯を使っての桂太君からの脅迫。



《はい…》




既に化粧もしており、準備万端だったあたしはそのまま急いで駅へと向かった。






駅に到着してみると、丁度菜緒達も姿を現した所だった。




「結芽ご無沙汰」




どことなく冷ややかな菜緒の態度。




「ご無沙汰です…桂太君もご無沙汰ですよね…」




「はい」




(うわ…2人して怒ってるし…)




「結芽、今から拓ん家行くよっ!」




菜緒が時刻表を見ながらあたしに言った。




「えっ?た、拓ん家?何でっ!?」




「理由はあんたが一番知ってると思うけど?ね?桂太」




「首ねっこ掴まれる前に素直に行こ?結芽ちゃん」




拓に会うのを、何としてでも阻止したいあたし。




「まだ体調が…」




「薬局でドリンク買ってあげる」




「若干顔色悪いでしょ…?あたし…」




「結芽ちゃん今日化粧濃いもんね~」




ことごとく言い訳を潰しにかかる2人。



「行きたくないなぁ~…なんて…」




あたしにとって最後の言い逃れ。




「「ダメ」」




結局、あたしは菜緒にしっかり手を繋がれ、来た電車に乗り拓の家に向かった。






電車を降り、ただひたすら歩く。




「拓ん家、親とかいないの?」




今更ながらの質問。




「あいつん家はいつも誰もいないよ?父ちゃんは入院してるみたいだし」




「入院?どっか悪いの?」




「さぁ…詳しくは俺も聞かないし…」




「そうなんだ…それよりも、あたし行く事拓は知って…」




「「勿論ない」」




「ですよねぇ…」





そんなこんなしてる内に、拓の家は目の前。



「あ、やば、お腹痛い…」




しつこい位の悪あがき。




「拓ん家のトイレ広いよぉ~?な~菜緒」



「そうそう、トイレ行きゃ治るっ!さ、早く入れ!」




今日もインターホンを鳴らさずに上がり込む桂太君の後ろを、あたしと菜緒は追い掛けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る