第四十九時限目

「俺、敦子先輩とはどうもなんないから」




「あたしに言われても…」




「俺の気持ち否定すんなよ」




突然




拓があたしの手を握ってきた。




「ちょっと!あっちゃんに見られるっ!」




あたしは、痛い位に握られている手を力一杯振りほどく。





「お前っ、薄々気付いてんだろ!?」




「何がっ!!」




「俺がお前を好きだって事だよっ!!」




いきなりのカミングアウト。




あたしは緊張から口が震える。




「もう、ずっと前からすげぇ好きだよ」




もう一度、拓があたしの手を取った。




「さっき言おうとした事…今聞いて?」




「やだ。手、放せ」



今度ばかりは我慢が出来ずに流れ落ちる涙。



「もう帰る、帰りたいっ…」




「結芽は俺が嫌いか?」




顔が熱い…




「…分かんないよ」




「好きか嫌いかの2択だろっ」




「何なの!?今までみたいに喧嘩友達でいいじゃんっ!」




「友達はさっき辞めるっていっただろーがっ!」




「じゃもういいって!」




ぐっちゃぐっちゃの会話。




もうあたしは自分で言ってる言葉に責任を持てない位に錯乱状態だった。




「あたしに聞いてどうしたい訳!?」




「けじめ付けんだよっ」




「友達じゃないんだから、もうけじめ付いてんじゃんっ」




「そうじゃねぇよっ、いいか!?よく聞けっ!お前が俺を受け入れんなら、俺はずっとお前の隣にいるよっ!でもお前がそれを拒否するんだったらっ…もう今日から俺の中にあるお前の存在を消すっ」





『お前の存在を消す』




しつこい程にあたしの頭の中で繰り返される言葉。






これが狙いだったはず…




拓に嫌われる事が




拓と距離を置く事が




敦子先輩と約束したあたしの目的だったはず…




でも




あたしの存在ごと抹消しちゃうなんて…






(なんだろ…苦しい…息出来ない…)




「俺は結芽の本当の気持ちが知りたい」




拓の声を聞きながらも、少しずつ手足が痺れて来てるのを感じる。



「あたしの…気持ち…?」




あたしは恐る恐るコンビニの中を見た。




そこにはもう敦子先輩の姿が見えない。




(あっちゃん、待ちくたびれてるよね…)




早くしなきゃと思う程、あたしの頭は作動しなくなる。




「結芽っ」




「待ってっ、お願い…」




(やだ…本当に苦しい…)




目の前がチカチカし、立っていられなくなったあたしはその場にしゃがみ込んだ。




「お、おいっ…、大丈夫かよっ?」




「あ、ちょっと…立ちくらみ…」




「立てっかよ…?」




「うん…」




(あたしの気持ち、言わなきゃ…)




そう思って立ち上がろうとした時。




(わっ…ダメだ…)




あたしの呼吸はプールでの息つぎの様な感じでしか出来なかった。




あたしは拓にしがみつき、思わず寄り掛かる。




「拓…、息出来な…」



「えっ!ちょっ、大丈夫かよっ!?」






『大丈夫』




そう言いたいのに苦しくて口に出来ない。




「ちょっと待ってろっ、先輩呼んでくるっ!」




拓が、急いでコンビニの中に入り、敦子先輩を連れてきた。




今までの過程が分からない先輩は、あたしを見てビックリ。




「結芽っ!?どうしたの?大丈夫!?」




胸を押さえてうずくまるあたしを、先輩が抱き締める。



「拓っ…、結芽どうしようっ!!」




「…あっ、救急車っ!!救急車呼ぶからっ!」




拓が急いで携帯を取り出し、電話を掛けた。




(あたし…心臓悪かったんだ…)




「結芽っ、今来るからなっ!」




それからすぐに救急車が到着し、救急隊員が紙袋であたしの口を塞ぎ始めた。




「ゆっくり呼吸して下さいね~大丈夫ですよ」




他の隊員が熱を計る。



「8度9分…熱ありますよ?うーん…、じゃぁ過呼吸も起こしたのでとりあえず地元の病院に搬送させてもらっていいですか?」




「はい…」




拓と敦子先輩も救急車に乗り、あたしのかかりつけの病院へと救急車が走る。




これだけ大騒ぎしたのに、病院に到着する頃にはケロっと治っていたあたし。




病院では『過度のストレスから来る過呼吸と風邪』と診断され、2時間程点滴をされた。




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