第八十八時限目
「服、着たよ」
「目ぇ開けていっすか?」
「うん」
拓は目を開けると急いであたしに駆け寄り、服の上から氷袋を当ててくれた。
「あたし自分で出来るよ!?」
「いや、今度は『冷たぁい』とかって絶対袋壊すからダメ。」
「あたしそこまでドジじゃないもん…」
「とにかく俺持ってっからいいって。」
それからあたしはテレビを見て、拓は空いてるもう片方の手でタバコを取り出し、吸い始めた。
お互い無言でいる中、拓の携帯が鳴る。
「あっちゃんから?」
「うんメール…、あと20分位で着くって。」
「そっか」
「…痛みどーよ?」
「うん、大丈夫だよ!」
心配そうにあたしを見る拓に、あたしはニカッと歯を見せて笑った。
「跡…残んの?」
「残んないって(笑)」
「ごめん、俺が悪かったです。」
「拓は全然悪くないじゃん!あたしがドジなだけだよ!」
(拓に謝られると調子狂っちゃうよ…)
「火傷した所…病院行かなくても平気か?」
「全然余裕♪」
「ホントか?どれ…」
拓が服の上から脇腹を触る。
「イデッ…」
「痛いんだろ!?」
「痛くない」
「ホントは?」
「…少しだけ…」
「嘘付け、メッチャ痛てーだろ。ちょっと見せろ!」
「何を?」
「脇腹だよ脇腹」
「は!?やだって!」
「見せろ」
「やだ」
「タンスあけっぞ」
拓が急に立ち上がり、ドアの横にあるタンスに手を掛ける。
「ちょっと辞めてってば!」
「じゃ見せろ」
「変な事しないでよ…」
「誰がすっかよ」
仕方無く、あたしは拓に脇腹部分だけを上手くめくって見せた。
「うわ…っ、メッチャ真っ赤だし…」
「はい!終わりっ!」
「ここ…痛くね?」
拓が1番ヒリヒリする箇所を指で触った。
(うわ…っ)
「やっぱイテーんだ…」
あたしの顔を見て、拓の言葉が止まった。
「何で泣いてんの?」
「え?」
本当、気付かない涙ってあるんだ…
あたしは無意識に目から沢山の涙を流していた。
「泣いてない」
「いやいや、どっからどー見ても…」
「泣いてないっ!!」
あたしは服を直し、垂れる前にティッシュで鼻をかんだ。
「痛かったん?」
痛い
辛い
気持ちが
好きって気持が止められない心が
苦しくて…痛い……
「バカ拓っ!離れろ!」
あたしは鼻をかんだティッシュを丸めて拓へ投げた。
「止めろって!」
「うるさいっ!」
(彼女持ちの奴の前で泣き顔見せてたまるか)
火傷の傷と胸の痛みが交互に襲う。
ズルイ
拓はズルイ…っ!
その時だった
「結芽……」
拓があたしを抱き締めた。
「何すんのっ!?」
「どうしたら笑っててくれんだよ」
「何いきなり…っ」
「マジ頼むよ…」
突き離そうとしても、拓の腕の力が強すぎて逃げられない。
「あっちゃんに…あっちゃんに言うからっ!」
「言えば?」
「脅しじゃないからねっ!」
「いいよ別に」
「あっちゃん知ったら…」
「結芽」
「何っ!」
「うるさい」
「はぁっ!?」
文句を言う為に顔を上げた瞬間
あたしは拓に3回目のキスをされた。
家の外からはかすかに車のエンジン音が聞こえ、ドアを閉める音がした。
(あたし…またあっちゃんを裏切ってる…)
離したくても離れないあたしと拓の口。
あたしは身動きが出来ないまま、ただ拓に抱き締められていた。
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