第八十八時限目

「じいちゃん、こんにちわっ!」






「!!!」






(何でそんなフレンドリーに変わってんの!?)






あたしの心の声が通じたのか、拓も唖然とした顔であたしを見る。







「俺…ちゃんと挨拶した?」




「…ある意味チャレンジャーだね…」






あたし達は、恐る恐るじいちゃんを見ると案の定、ボケっとした顔でこっちをジッと見ていた。








何となく気まずい雰囲気が流れる。





すると、拓が突然じいちゃんのコタツに座り始めた。







(今度は何する気…?)






「俺、松澤って言います!良かったら戦争の話し聞かせて下さい!」








あたしもじいちゃんも目が点。







「…ダメ…っすかね…」





(当たり前じゃん…じいちゃんは気難しい性格なのに…)



「拓…っ!ホラ上行こっ!」







座っている拓の袖を引っ張り、無理矢理立ち上がらせようとした時






じいちゃんが口を開いた。






「あんた、松澤君…だっけ…?」




「あ、はいっ」




「……俺があんた位の……」







(…マジ?珍しい…拓の事、もしかして気に入ったのかな…)





身内にはベラベラ喋るが、それ以外の人にはあまり口を開こうとしないじいちゃん。




そんなじいちゃんが、初対面の拓と昔の思い出話しをしている。





「…で、真珠湾攻撃がな…」




「うんうん…」





(何この光景…)




「結芽」




「何…」




「じいちゃんと俺にお茶。」




「お前がゆ―なっ!」




すっかり2人の世界を作っている空間に入り込めなかったあたしはお茶を出した後、しょうがないので拓に言って自分の部屋にいる事にした。




時計を見れば、敦子先輩が到着しそうな時間まであと30分ちょい。





「…お腹空いたかも…」




あたしは1階に降りて台所でお茶漬けを作り、それを持ってまた部屋へと戻った。







テレビを付けお茶漬けをすする。




(あ、制服汚したらヤバいよね)





あたしはベットの上にあった部屋着に着替える為ブレザーを脱ぎ、ポケットに入っていた携帯と小銭ををテーブルの上に置いてワイシャツのボタンを外した。






その時…







ガチャ……ッ







「ここかっ!?」





「えっ!ちょっと…っ」






あたしを驚かそうとしたのか、拓が突然部屋のドアを開けた。





あたしはワイシャツを半脱ぎ状態。






「うわっ、ご、ごめんっ!!」




「ヤダ…っ、外出ててっ!」






(見られた!?もうバカ拓~!)





「えっ、外!?外って靴履いて外!?」





「うるさい!とにかくそこのドア閉めてっ!!」






あまりの恥ずかしさで慌てたあたしは、床にあったボックスティッシュを手に取り、拓に投げ付けようとした瞬間…










ガチャン…ッ







「熱っ……」






「おい…っ!」





肘が茶碗に当たり、熱湯をかけたばっかりのお茶漬けが、あたしの脇腹にモロに溢れた。






「結芽、ワイシャツ脱げっ!」




「やだっ!」




「目潰っててやっから!早くしろっ!」




「だ、だって…」





脇腹がヒリヒリする






「あ゛~ったく――っ!!」




突然、拓があたしのワイシャツのボタンをせっせと外し始めた。







「ちょ、ちょっと!!」




ボタン外しを阻止するあたし。






「こんな非常事態に襲ったりしねぇよ!いいから早く脱げっ!」





頭をこずかれ、無理矢理ワイシャツを脱がせられた。





あたしは着替えるはずだった服で前を隠す。






「ちょっと見せろ」




「大丈夫だよ…」




「…冷蔵庫、勝手に開けるぞ。」




「へ?」




「氷、持ってくっから!」





拓は急いで台所へ降り、何処から見つけて来たのか買い物袋に氷を入れて戻って来た。







「ホレ、その前に服着れっかよ?」




「う、うん」




「目、閉じててやるから着ろよ」





段々と火傷した部分のヒリヒリが強くなる。




あたしはなるべく服が脇腹に擦れない様、静かに着替えた。




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