第八十七時限目

「ど、どうする?何処かで暇潰す?」





「…直行しようぜ、タバコ吸いてぇ…」




「わ…分かった。」











帰宅するには、まだまだ早い時間。





なるべく2人きりで部屋にいたくなかったあたしは、わざと遠回りをして時間を稼ぎ、家へと着いた。



「お前ん家、誰かいんの?」







玄関の入口前で、いきなり拓が立ち止まった。





「あ―、お母さんは仕事だし…じいちゃん位かな。」




「じいちゃん?これか?」




拓が指さした物…







「アホっ!それの何処がじいちゃんなのよ…っ、それは『グランド』っ!!」




「俺の中学ん時の友達が犬に『アニキ』って名前付けてた奴いたからさ…てっきり…」




「うちのじいちゃんは人間ですから…」




「そっか……」







そして




拓が何かを思い付いたかの様に口を開いた。






「じゃ、挨拶しねぇとなっ!!」







「はぁっ!?」





「『は?』じゃねぇよ、ホラ、家ん中入れろっ!」




「え、ちょっとっ!」





驚くあたしを残し、拓はズカズカと玄関の扉を開け、そして何故か慌てた様子でインターホンを押し、また中へと入って行った。




じいちゃんの部屋は玄関を上がってすぐ左側。






「ななな、じいちゃん何処?」




「本当に挨拶するの?別にいいのに…」




「アホたれ、人ん家上がったら挨拶すんのは常識!…で?何処だよ?」




「……ここ。」




拓はちゃらんぽらんに見えるが、実は意外とジジ臭い。




(女友達ですらした事ないのに…変なトコに煩いんだから…)





じいちゃんの部屋のドアに手を掛ける拓。





あたしは、その光景をすぐ側の階段に座って見届ける事にした。









「こんにちわ―…」




ドアから顔だけを出し、拓はじいちゃんに話し掛ける。





「……」




テレビの音は聞こえるのに、肝心なじいちゃんの返事がない。




(あれ、じいちゃんトイレかな…)




あたしは階段から腰を上げ、拓の元へと行った。






「拓?」




「俺じいちゃんにシカトされた…」




「え?」




ヘコんだ様子の拓を後ろに下げ、部屋の中の様子を見ると、じいちゃんはコタツにあたりながらテレビを見ていた。







「もしかしてさ、じいちゃんボタン押さね~と機能しないとか…」




「何処にそんなもんついてんのよ」




「ホラ、なんとなく頭とんがってね?」




「ハゲてるからそう見えるだけっ!(笑)あのね、じいちゃんは耳が遠いから大声で言わないと聞こえないのっ!」





「なんだよ、なら最初に言えっての!俺はてっきり…」




「はいはい、ボタン付いてないから!それより早く挨拶するならして!」






再度気を取り直した拓は、今度はガラリとドアを開け、言葉を発した。




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