第八十六時限目

「さて、拓君に家まで送って貰おうかな!」



「……」




「おいっ、聞いてる?」




「…聞いてるよ…」







こんなに元気が無い拓は初めてだった。





「…拓、学校戻る?」



「何で」




「だって…」




「今は…お前と一緒にいるよ。」





そう言って、あたしに目もくれず拓は1人で歩き出した。









あれから、いくらあたしが話し掛けても




『あぁ…』




の1言だけで会話は終了。





(さっきの霧島君が言ってた事…そんなにダメージが大きいの…?)





やっぱり知りたい




でも聞いちゃいけない…





あたしの頭の中で葛藤する2つの意見。





(やっぱり拓から話してくれるまで待とう…)



人の過去を無理矢理聞いたりするのは良くない




誰にだって秘密にしておきたい過去はあるはず




きっと、今は知る時期じゃないのかもしれない…







(しょーがないな…コーラでもおごってやるか…)





拓の好きなコーラ




きっと飲めばゲップと一緒に嫌な事も吐き出して元気になるかも…




そう思ったあたしは、スーパーの入口にある自動販売機でコーラとお茶を買った。





「拓!はいコーラ!」



少しだけ離れた距離から、拓にコーラを投げる。




「…サンキュ」




渡したコーラを持ったまま、また拓は歩き出した。





「あれ?飲まないの?」




「あぁ」




「何で?」




「お前メチャメチャ振ってたから」




「…バレてたのね(笑)」




「結芽」




あたしの前を歩きながら、拓が言う。




「さっき、悪かったな。」




「何が?」




「しゃしゃり出て…すいませんでした。」




「あ――…、あのね、昨日は…」









隠さずに言おうと思った。





拓はあたしの昨日の行動を気に掛けてくれた。




それは、どんな思いから来るのか…




それは分からない




でも




あたしは拓に『気にしてもらえる』そんな存在である事が本当に嬉しかった。





(黙ってる必要無いよね…やましい事なんてしてないんだから…)




「実はさ~」






あたしが話し始めると、拓の携帯が鳴った。




「あ…拓電話…」




「あ、俺か…ちょっとごめん。」




携帯の画面を見て軽くため息をついた後、拓は電話に出た。




「もしもし…」





何となく電話の相手は誰だか検討はつく。





「え?今?…もう帰ってる…」





あたしは、なるべく会話が聞こえない様に拓から離れた場所でお茶を飲んでいた。





(あ゛―、明日から学校行くの嫌になりそ…明日は何処まで話しが屈折してるかな…)




今、あたしは生徒のいいネタ。




あんなメールをよこされる位だから、よっぽど『軽い女』で定着してるんだろう。





(あたしもコーラ買えば良かった…)





嫌な事を出してしまいたい…




そんな事を考えながら、空を見ていると拓があたしの所に歩いて来た。






「…終わった?」




「代われって…」




「は?」




拓が携帯をあたしに渡す。




「だ、誰?」




「敦子…」




(やっぱり…)




当然の事だと思う。




自分の彼氏が、他の女の子と失踪したあげくに学校に戻らないなんて…




「ごめんな…何回も無理だって言ったんだけど…」




「いいよ、拓は謝んないで(笑)」






あたしは怒鳴られても仕方がない事を覚悟し、電話を代わった。








「…結芽です。」




「敦子だけど」




少し声を聞いただけでも、かなりのご立腹な様子が伝わる。







「結芽、放課後時間くれない?」





(来た――――っ)





「あ…うん、分かった…」




「拓も一緒だから」




「拓も!?」




拓を見ると、申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせている。



(あたしが悪いけどさ…女って面倒臭い…)






「分かりました、で…?何処にいたらいい?」




「結芽ん家」




「………何?」




「結芽の家!拒否権ないから、じゃぁね!」



「あ、ちょっともしもしっ!?」




本当に拒否する事も与えられず、一方的に電話を切られてしまった。






「結芽、終わった?」



「…うん」




「何処で待ってろって?」




「家」




「俺の?」




「あたしの」




「あたしの…??…………え゛っ、お前ん家かっ!?」





「ハハハ……ようこそ~なんつって…」









推定




敦子先輩があたしの家に来るまで、あと1時間と40分






あたしと拓がいるこの場所から、あたしの家まで約30分。

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