第八十五時限目

「とにかく、勘違いしてるみたいだけどあたしは平気ですんで。」





「…悪かったな、余計なお節介焼いて。」





胸が痛い




拓にそんな事を言わせてる自分が憎い







「でも、これだけは覚えといて」




拓がさっきおばあちゃんから貰ったジュースを一気飲みし、そして言った。







「お前が泣くと…俺辛いんだよ…」








何で?




どうしてそんな事言うの?




あたしが泣くのは拓を想って泣くからだよ?



どうして苦しくさせるの―――…??








「俺さ…っ」





拓が何か言い掛けた時、あたしの背後からバイクが来た。





「結芽、危ねぇぞ」




「あ、うん…」




左側に避け、バイクが過ぎるのを待つ。



段々とゆっくり近づくバイク。





同じ制服




見たことあるバイク






「あっ!」




あたしは思わず声を出してしまった。







「竹内いたぁ~!」





「霧島…?」




拓が眉間に皺を寄せ、霧島君をじっと見つめる。





「竹内~探したよ~!帰るの??」




「あ…、うん……でも何で?どうしたの?」




「風邪かな~なんて思ってさ――…、竹内昨日寝てないじゃん?俺ばっかり爆睡しちゃってたから…」






拓があたしを見る。




「昨日…?お前等一緒にいた…の?」






次々と起こる問題。







あたしの厄日はこれからが本番で始まるのだった。




「おいっ、結芽!」






別に隠す理由なんてないはず。




なのに、上手く口が開いてくれない。




「何黙ってんの?いいや、お前言わねぇなら霧島に聞く。」




「え、俺!?」





笑顔1つない拓と




笑顔で心が読めない霧島君。




2人はあたしをよそに、道端のど真ん中で探り合いを始めた。







「霧島ってこいつと仲良かったっけ?」




「松澤が知らなかっただけじゃん?」




「昨日何してたんだよ?」




「秘密~♪」




「お前等学校サボって何処で何してた訳?」



「松澤に関係なくない?竹内の彼氏じゃないんだし(笑)」





口の上手さでは拓よりもはるかに霧島君の方が上。





「お前さぁ、こいつ好きなん?」




「だからぁ~関係ないっしょ!!」



ヘラヘラと拓の質問を交していく霧島君にムカついたのか、拓がブレザーのポケットからタバコを取り出した。






「拓っ!」




「何だよ!?」




「タバコ…っ!ヤバいって!」




(拓…かなりイライラしてるな…)





「うるせぇよっ、イライラさせてんのはお前等だろーがっ!」





「何でそこまでキレんのっ!?拓こそ意味分かんないっ!」




「ありゃりゃ…松澤って意外と器が小さいのね~」




「霧島君もいちいち拓を煽る言い方辞めなよっ!」




「ごめんごめん(笑)だってさぁ~松澤の方が沢山竹内に秘密あると思うよ~??」







何かが気に障ったのか、




それとも図星だったのか…







「あ?」






拓が急にキレ出した。




「霧島さ、お前何か知ってる訳?」




「え?俺今何か言った?」




「おめぇは女か!?ヘラヘラしてんなよ気持ち悪りぃ。」





「拓…っ!!!」







これ以上悪化して欲しくない…





そう思い、拓の暴言を止めに入った時…







「松澤~お前自分の親植物人間にさせといてよく偉そうに言えるよな~?」





「お前…っ、何で…」






親が




植物人間…?




拓の…親…?








「何…?それ…」





霧島君が言う意味が分からずに、あたしはただ拓の顔を見上げた。




「拓…?」




あたしと目を合わせ様とせず、拓はこぶしを握りしめたままうつ向いている。





「俺、松澤関連結構知ってるよ~?喋っちゃっていいの??」



「………」








何でだろう…




初めてだった




初めて




拓がもの凄く小さい人間に見えた。




そして、それと同時に




『聞いちゃいけない』




…そう思った。









「霧島君、ごめん。」



「え?」




「学校に戻ってくれない?」




「何で~?送ってくよ?」




「今日は拓に送って貰うから…」





霧島君がチラッとうつ向いたままの拓の顔を覗く。






「…竹内が、そう言うなら…」




「ごめんね、田村には後で連絡しますって伝えてて?」




「分かった。じゃまたね!」




「うん、バイバイ」






いつもと変わらない、爽やかな笑顔をあたしに向け霧島君はバイクでまた学校へと戻って行った。












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