第七十四時限目
「…ヤバい」
「…は?」
「竹内にキスしたくなった」
「はぁっ!?」
頭をクシャクシャ掻き立てる霧島君。
「これ、変態の領域に入ってるよね?」
「わ、分かんないよそんなのっ…」
あたしはヘルメットを盾代わりにし、下を向いてそれとなく防御する。
「竹内っ!」
霧島君がガシッとあたしの両手を掴んだ。
(ひゃぁ~っ!)
全身に力が入る。
「…やっぱりダメだっ!」
「…へ?」
霧島君があたしの顔をグインと上げる。
「今は我慢するっ!」
「今…は…?」
「ちゃんと両想いになった時まで取っとく!」
「……」
「そん時は一杯しようねっ!!」
「え…あ、あの…」
「ねっ!?」
「う、うん…」
「はい決まりっ!じゃ帰ろ~」
明るくて優しくてある意味純粋で…
(霧島君と付き合った子は幸せになれるんだろうな…)
バイクにまたがり、霧島君がエンジンをかけようとした時、あたしの携帯が小さく鳴った。
「誰だろ…」
「竹内の親とか?」
「げっ…それは嫌かも…」
「とりあえず出なよっ」
「うん」
バックから携帯を取り出し、ディスプレイを見る。
「誰?やっぱり親?」
「……」
「竹内?」
しつこく鳴り続ける携帯。
画面に表示されている名前…
『松澤拓』
「出ないの?」
「ん?あ、出る出る…」
せっかく我慢して閉めていた涙腺が、また勝手に緩み始める。
「大丈夫…?」
(今だけ…今だけ踏ん張れ…)
「平気っ(笑)」
久しぶりに見る拓の名前。
本当は嬉しくて飛び上がりそうなはずなのに、こんなにも電話に出るのが怖いなんて…
(よし…)
あたしは深呼吸をして通話ボタンを押した。
「もしもし…」
どん底から少しだけ這い上がっていた途中のあたし。
でも、この電話であたしはまたどん底に滑り落ちる事となった。
あたしはざわつく胸を右手で痛い位掴み、すぐ側ではバイクにまたがりそっぽを向いて待っていてくれている霧島君がいた。
そして電話の向こうからは車や救急車が通り過ぎる音が聞こえて来る。
「もしもし…?」
「……」
(何で何も言わないの…?)
拓の携帯は2つ折りじゃない為、昔はよくズボンのポケットに入れてては勝手にボタンが押され、無言電話がかかって来た事があった。
(また誤作動かな…)
霧島君を待たせてる罪悪感もあり、府に落ちないまま電話を切ろうとしたその時…
「…俺だけど…」
騒音に混じりながら拓の声が聞こえて来た。
「もしかして寝てた?」
(寝れる訳ないじゃん…)
「寝てないけど…」
「ってかお前今日学校休んだろ…出血だって?」
「…は?」
「あ!?」
こんな夜中に、しかもあんな事があったばっかりなのに相変わらずのバカ具合にあたしは溜め息が出る。
「出血!?」
「菜緒が『結芽が下半身から出血して大変』って言ってたぞ?」
「まぁね…いつもの事だし」
どんな状況であれ、拓に嘘をついているのがあたしは心苦しい。
「痔か?」
「違うっ!痔とか言うな!」
『痔』の言葉に反応し、かなり驚いた顔であたしを見る霧島君。
「えっ…?あっ、ち、違うからっ!」
「は?お前何言ってんの?」
「別にっ!?それより何!?用件あるなら早くしてっ!」
大体の検討はついてる。
拓が敦子先輩の彼氏であるとゆう事…
『認める』のか
それとも『否定』するのか…
とにかく、あたしは拓の話を最後までちゃんと聞こうと思った。
「…さっきは悪かったな」
「何が…」
「あつし先輩が余計な事言ったみたいで…」
「何余計な事って」
「俺と敦子が付き合ってるって…」
(敦子…ね)
「へぇ…呼び捨てなんかしちゃって…」
「でも、あつし先輩が言ってた事…マジだから」
また、目の奥が熱くなって来ているのが分かる。
「つ…、付き合ってんだ!?」
「…あぁ」
「そうっ!良かったじゃん!?」
「…あぁ」
本当は聞きたい事が一杯。
でも、そんな事をしたらきっと拓はあたしの気持ちに気づいてしまう。
拓はもう『人様の彼氏』。
そして…
あたしは恋に敗れた情けない女でしかない…
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