第七十三時限目

あまり外灯もない道を走り、着いた所は駅からバイクで5分程にある公園。




そう…




そこは拓が磯田君にはめられて停学になった所だった。






「ごめんね?こんな場所で…」




霧島君がバイクから降り、あたしの頭からヘルメットを取ってくれる。




「そんな…、あたしの方こそ付き合わせちゃってごめん」




「何で竹内が謝んの?俺が連れだしたんだからさ…しかしやっぱり夜は冷えるね~寒くない?平気?」




「ある意味寒い…」




昼間は親子連れ等で賑わう公園も、夜は一変して肝試しスポットになる位の気味の悪さ。



「こうゆう時ってさ、むやみに後ろ振り向かない方がいいんだよね」




霧島君にそう言われ、余計に背筋がヒヤリとしてしまう。




「ハハハ…」




霊感は無いものの、これ系の類の物は一切駄目なあたし。




幼稚園の時に1度だけそれらしき者を見てしまった事があり、それ以来作り話でさえもあたしは断固として耳に入れるのを拒否する様になった。



「さて、そろそろ聞いても大丈夫かな?」




そう言いながら、霧島君は側にある石で動物の形を型どった乗り物に腰を下ろした。





「俺でよければさ、話聞くよ?」




不覚にも、霧島君の前で泣いてしまったあたし。




よく『涙は女の武器』なんて言うけれど、あたしはそんな武器を使ってわざと誰かに甘えるなんて事はしたくない。




「泣いた理由、忘れちゃった(笑)」




「桂太って奴と何かあったの?」




「桂太君っ!?全然違うっ!」




「ねぇ、竹内の好きな奴ってさ…」




「桂太君は絶対違うからね?第一彼女いるし、彼女あたしの友達だしっ…」




「だよね、いや、もしかして三角関係のもつれかなんかかなぁ~なんて思ってさ…」




遠慮がちに聞く霧島君の態度に、あたしは思わず吹き出してしまった。




「三角関係?(笑)あたし彼女持ちの男の子に手ぇ出したりしないから(笑)」




『彼女持ちの男の子』



拓が敦子先輩の彼氏…?




今だって、もしかしたら本当に夢だったのかもって思う。




だってあまりにも突然過ぎてあたしの気持ちが追いつかない




でも…




携帯の発信履歴が、これは夢なんかじゃなく現実なんだとゆう事を苦しい程に思い知らせてくれていた。





「…本当に大丈夫?」



霧島君が心配そうにあたしの顔を覗く。




(ヤダ、あたしいかにも『心配して下さい』って顔してたかな…)



「全っ然平気っ!霧島君心配するだけ損だよっ(笑)」




(今はしっかりしなきゃ…)




「そぉ?それなら俺はこれ以上追求しないっ!」




公園の時計に目をやると、丁度30分が経過していた。




「霧島君眠くないの?」




「俺、あんま寝なくても平気な人間なの(笑)竹内こそ眠いんじゃない?」




「眠くは無いけど、そろそろ帰らなきゃ…」



「そうだよねっ!ごめんっ」




「駅で降ろしてくれる?自転車取りに行かなきゃ」




「何言ってんのっ、家まで送るよ!」




「え、でも明日学校に…」



「それなら明日学校までバイクで送るよ!」



「えっ!」




さすがに2ケツで登校なんてした日には停学処分になりかねない。



「いいよいいよっ!」



「じゃぁ、せめて駅までは?駅から自転車で行けばいいじゃん?」



「…うん、駅までなら…」




霧島君があたしにヘルメットを被せ、ほっぺを軽くつまむ。




「俺にはさ、これ位しかしてあげれないから。遠慮しないで色々言ってね?」





たとえ冗談でも今のあたしには救いの言葉。



「ありがとう、正直霧島君が今日いてくれて良かった…」




別に期待を持たせようとして言ったつもりはない。




本当に、霧島君の存在に救われただけ。




いつもなら恥ずかしくて言えない様な言葉。



なのに今はすんなり口に出すことが出来た。



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