第七十二時限目
「ヘへ…一気に飲んだからね(笑)あのね~、今日は敦子の『彼氏が出来ましたおめでとう会』なんだって~」
「え…?」
(あっちゃんに彼氏!?)
「あれれ?また知らないの?君達仲良くないんだね~(笑)」
「…あっちゃんは?あっちゃん出して下さい」
「あいつ今風呂だよ?あ、彼氏なら横で寝てるから彼氏に変わりまぁすっ」
「はぁ!?いやっ、いいですって!」
「何言ってんの~(笑)彼氏も同じ剣道部でしょ~?待ってて~」
「剣道部…?」
うちの剣道部の男子は皆彼女がいない。
別にださいとか見た目が悪い訳じゃないと思う。
ただ、みんなどこか少しずれていて、彼女よりも
『男友達優先』
と言うある意味気持ち悪い人達の集まりだっだ。
(誰だろ…あ、あれだっ、自称福山似の…)
《おい、彼氏君起きろ~ 》
電話の向こう側で、あっくんが敦子先輩の彼氏を起こしている様子が伺える。
《お~い…君、名前なんだっけ…?あ゛~》
あたしはワクワクしながら次の言葉を待った。
《あ、そうそう》
(何!?誰!?)
《拓君~起きろ~》
「え…」
(今何て言ったの?)
あたしの体が金縛りの様に固まる。
『拓』…
「拓さぁ~ん、電話~」
息をするのさえ忘れてしまう程の名前。
どうして?
何で拓が敦子先輩の家にいるの?
彼氏って何?
拓は敦子先輩を振ったんじゃないの?
敦子先輩はあの時あたしに何て言った?
あたしの頭の中はぐちゃぐちゃ。
次々に色々な言葉が脳みそを突き刺す様に湧き出て来る。
(あっくんが名前間違えてるだけだよね?酔ってるから…)
「あっくん…もういいよ」
もう、真実を知るのが怖い。
「あ、起きたっ、今変わるっ!」
でも…
声を聞けば分かるはず。
あんなに沢山一緒にいた人の声…
こんなにも大好きな人の声…
受話器がガサガサと鳴り、あっくんから敦子先輩の彼氏へと携帯が渡された。
「あ゛―…もしもし?誰…?」
(…嘘…)
ブチッ……
ツーッ、ツーッ、ツーッ………………
無意識に電話を切ってしまったあたし。
何が何だか分からない。
今のは…夢?
電車が駅に着き、ボーっとしたままあたしは改札を抜ける。
今のは何…?
もしかしてあたしが寝てた?
やっぱり夢…?
あの声は間違いない。
紛れもない『拓』の声。
改札前で突っ立っていると、あたしの携帯が鳴った。
「はい…」
「竹内?」
「…霧島君?」
「前っ、前向いてみっ!」
電話をしながら、あたしは駅の外を見る。
(あ…)
そこには…
「霧島君…」
肩をすくめながら、寒そうに立っている霧島君の姿があった。
「え…何で…?」
「俺もさっき帰って来たんだけどね、まだ竹内のチャリあったからさ待ってたっ!」
「…何か話しあるの?」
「わっ…!竹内!?」
「え…?」
「ちょっと!泣かないでよっ!」
霧島君が慌ててあたしに掛け寄る。
「どーしたのっ!?」
「何でも無いっ…、びっくりしちゃって…」
「…嘘でしょ?」
「本当だよ…(笑)」
泣き顔なんて見せたくないのに涙が止まらない。
「ごめんね、遅いから帰ろう?」
顔を伏せ、駅の外に出ようとした時…
「好きな女の子が泣いてんのに、黙って帰す奴なんていないからっ!」
霧島君があたしの手を取り、無理矢理駅の外にあったバイクにまたがらせた。
「ど、何処行くのっ?」
「30分だけ俺に時間頂戴っ!」
この人は何てタイミングがいいんだろう。
どうしてこんなにいい人があたしなんかを好きになってくれるんだろう…
温かい霧島君の背中。
あたしはヘルメットを深く被り、霧島君の背中に頭を押し付け、声が聞こえない様に泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます