第七十一時限目
まだまだ肌寒い夜の中、桂太君は一言たりともあたしの話を聞き漏らさない様、たばこも吸わずに聞いてくれていた。
全部話すまでどれくらいの時間が掛かったのだろう。
気が付けば、駅はもう目の前だった。
あたしの話を全てを聞き終えた桂太君が、背伸びをしながらやっとタバコに火を付ける。
「…なるほどねぇ」
「……」
「で?結芽ちゃんは霧島を好きになる訳?」
「…ならないよっ!、だってあたしはっ…」
「拓が好きなんだもんな?」
「……」
あたしの心の中で、まだ100%拓に突っ走る事が出来ない自分がいる。
拓とケンカした時、あんなに自分の中で誓ったはずなのに…
『もう恋はしない』って思ったのに。
それでも想いだけが先走りし、あたしの体全部で表現しようとする。
「結芽ちゃんはさ、拓に彼女が出来ても平気なの?」
あたしのいつまでもハッキリしない態度に、桂太君が少しイラついた口調で言った。
「だって、それはあたしがどーのこーの言える立場じゃないし…」
「ダメだこりゃ…」
吸っていたタバコを投げ捨て、桂太君はあたしを置いて駅の中へと歩き出す。
「桂太君っ」
「君は一度後悔しまくった方がいいよ」
「は?」
「結芽ちゃんがこの先誰と付き合おうが俺は何も言わない」
「……」
「でもね結芽ちゃん」
桂太君は電車の時刻表を確認しながら、冷たい表情で言葉を投げ捨てた。
「いつまでも拓が結芽ちゃんを好きでいると思ってたら大間違いだから」
胸に凄い激痛が走り、あたしは何も言い返す事が出来ない。
「ふらふらしてないでさ、好きならちゃんと捕まえておきなよね」
そう言いながらも、桂太君はあたしの分の切符まで購入してくれ、力が入っている右手に切符を差し込んでくれた。
「ムカついたかもしんないけど、どうでもいい奴には言わないから…さ、電車出発しちゃうよっ?走ればまだ乗れるから急ごっ!」
桂太君はノロノロ歩くあたしの腕を引っ張り、なんとかギリギリで電車に乗り込む事が出来た。
車内では殆ど無言のあたしと桂太君。
桂太君はウォークマンで音楽を聞き、あたしは微妙に酒臭いおじさんの不思議な匂いに酔ってしまっていた。
そしてあっという間に桂太君の地元に着き、軽い挨拶を交わしそのまま別れた。
最近、1人になる時間があまり好きじゃない。
マイナス思考なあたしは、これでもかと言う程自分で自分を追い詰め、でも自分の力では上に這い上がる事が出来ない情けない人間。
「あっちゃんにでも電話してみよっかな」
携帯を取り出し、電話帳から敦子先輩の番号を探す。
「まだ寝てないよね…?大丈夫かな…?」
時間は、もうすぐ日付が変わろうとしている。
こんなに夜遅くまで外にいたのは久しぶり。
あたしは少し躊躇しながらも、敦子先輩に電話を掛けた。
敦子先輩を呼び出すコールが鳴り響く。
(出ないかな…寝た?)
明日も勿論学校。
寝てしまっているのなら、起こしてしまう前に切ってしまおうとボタンを押し掛けた時…
「…もしもし??」
敦子先輩の携帯から男の人の声が聞こえて来た。
(やばっ…、間違えた?)
「あっ、あのっ…」
「あ?あれ?その声、もしかして結芽ちゃん??」
(は!?)
よく聞いてみれば、その声はあたしも知っている声。
「え…もしかして…」
「俺俺っ!!あっくんだよ~!」
「あ、あっくんっ!?」
(ついさっきまで一緒にいたのに…)
「何で?これあっちゃんの携帯だよね?何で一緒にいるの?」
「え?聞いてないの?敦子と俺友達だよ~?」
(全然聞いてないよ…)
電話の向こうのあっくんは、少しテンションが高い。
「2人で何してるの?」
「今?敦子ん家で飲み会~!結芽ちゃんは?今帰り?遅いねぇ~」
(あんたの行動が早いだけだっての…)
「ねぇ、俺酒臭いの分かる?」
「いやいや電話なんで…酔ってるんですか?」
酔っ払いは大の苦手。
こちらの事情もお構い無しでやたらと絡んで来たり、意味も無く説教したりする兄貴を見て来たので、あたしはあまりだらしなくお酒を飲む人には関わらない様にしていた。
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