第七十時限目

どうやら男衆は全員彼女がいて、その中でも渉君は来年彼女と結婚するらしい。




「結芽ちゃんは彼氏いないの?」




渉君が携帯をイジリながらあたしに聞いた。



「いません」




「作らないの?作れないの?」




(こいつ…今日会ったばっかりなのに)




「作らないんです」




渉君の微妙な辛口トークに冗談でも顔がひきつるあたし。




「じゃ、好きな人位はいるでしょ?」




「いません」




「嘘だぁ~?花の女子高生が恋してないなんて勿体無いぞ~?」




「例外もいますから」



「桂太っ、お前結芽ちゃんの好きな奴知らない?」




矛先が桂太君に回り、あたしと桂太君の手がピタリと止まる。




「おっ?その反応は知ってるな!?」




1個上なだけなのに、何故かおじさんパワー炸裂の渉君。



桂太君が上目使いであたしの顔を見る。




(絶対にダメっ…!)




口パクで桂太君に伝えると、桂太君は頭を掻いて渉君にこう言った。




「いますよ。俺の親友でしかも両想いですっ!!」




「な…っ!」




「ひゅ~!春だねぇ~、初々しいっ」




「渉辞めとけ(笑)結芽ちゃんに嫌われるぞ。な?結芽ちゃん」




あっくんが調子に乗っている渉君を止めてくれる。




「え~結芽ちゃんって沢山引き出し持ってるから面白いじゃん」




「結芽ちゃんも何か渉に言い返していいよ?」




「…渉君」




「おっ、何結芽ちゃん?」




「開いてます」




「何が?」




「チャック」




「え゛っ!!マジ?」



渉君が慌ててズボンに手をやる。




「嘘です。ここからじゃそんな所見えませんし」



「くそっ、意外とやるな…」




「結芽ちゃんお見事(笑)」




(渉君とは、これからこんな感じなんだろうな(笑))





それからもこんな話題で盛り上がり、ふと時計をみると10時を回っていたのでこの場でお開きとなった。




「剛は渉が送ってくけど、桂太と結芽ちゃんは?俺が送ろうか?」




「俺達はゆっくり歩いて電車で帰るんで。結芽ちゃん時間平気?」



「うん、大丈夫だよ」



「そっか、じゃまた近いうちにっ!」




「剛、渉君バイバイ!」




「桂太、結芽ちゃんに襲われんなよ~」




「渉君はさっさと風呂入って寝て下さいね…剛君もまたねっ」




あたしと桂太君を残し、それぞれが自分の家へと帰って行く。




「さて、俺達も帰りますか」




「…この裏切り者め、菜緒にやっつけてもらうからっ!」




「さっきの事まだ怒ってんの?(笑)」




「あたし拓が好きっていつ言った?しかも両想いなんかじゃないしっ!」




「言わなくたって分かるよ。それに両想いだし…お互い意地張ってるけどね」




「別にあたしは…」




「いい加減認めなよ、自分でもちゃんと分かってんだろ?」




「……」




本当は全てをブチまけてしまいたい。




でも、あたしってゆう人間は肝心な時に素直になる事が出来ない。



だから、桂太君や菜緒の事を羨ましいとも思うし、どうしたら素直になれるのか教えて欲しい位だった。




でも




今ブチまけてしまったら、きっと拓への気持ちが溢れて止まらなくなってしまう。




そして…きっとまた桂太君と菜緒に迷惑を掛けてしまう。






「結芽ちゃん?」




「…よく、分からない」




桂太君が呆れ気味に深い溜め息をつく。



「俺は別に構わないけどさ、菜緒には正直に言ってやってな?」




「え?」




「あいつなりにへこんでたりするからさ…結芽ちゃんが言える時が来たらで全然いいから」




「うん…分かった…」



最近、自分の事しか考えてなかったあたし。



周りがこんなに心配してくれてるのにいつまでたっても成長できないあたし。




(菜緒ごめんね…そのうち必ず全部話すから…)




「で?そろそろ聞かして貰える?」




「え?」




「何であいつといたのか。偶然会ったにしては仲良すぎたし」




「うん…」




「聞かせてくれる?」



(少しは心をさらけ出さなきゃな…)




「全部正直に話すから…聞いてね?」




「勿論」




次々とネオンが綺麗に光る建物の下を、あたしと桂太君はゆっくりと歩く。




「あのね…」





重くなる口を開き、あたしは今日1日全ての行動を桂太君に話し始めた。


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