第九十一時限目

「結芽なんか…」




「え?」




「結芽なんか父親に捨てられたくせに!!」



「…え?」





あたしが




父親に捨てられた…!?




「敦子先輩っ!」




「あんたなんて所詮それ位の価値の人間なんだからっ!!」





泣きながらあたしに怒鳴る敦子先輩に




それをなだめるあっくん。




そして…あたしの隣では




ただただ焦る拓の姿。




あたしが知ってる事と言えば、今現在父親がいないとゆう事だけ




(何…?頭が回らないよ…)





この後




あたしは何も分からないままこれまで拓と過ごしてきた日々をとてつもなく後悔する事となった。



「ねぇ…どーゆう事?あたしのお父さんが何?」




次々に出てくる耳を塞ぎたくなるような話。




「先輩辞めろって」




拓が敦子先輩の二の腕をがしっと掴んだ。




「もう隠す事無いじゃん?拓はあたしと別れるんでしょ?結芽と付き合いたいなら教えてあげなきゃねぇ?」




「…俺から話すから」



「拓は言えないよ絶対。だからあたしが結芽に教えてあげる」




そう言うと、敦子先輩はベットへと移動し腰を下ろした。




「結芽、あんたのお父さんは何でいないんだっけ?」




「え…?あぁ…」




顔すら覚えていない父親。




どんな人だったのか




今は何処で何をしているのかさえ分からない。




知ってる情報は全てお母さんとばあちゃんからの話のみで、本当の事なんて何も知らない。



「浮気で別れたんだよ。」




「それだけ?」




「何…それだけって。」




「…結芽ってとことん幸せな女だね(笑)」




何も知らないあたしを敦子先輩が鼻で笑う。



(何なの?まだ何かあるの…?)





あたしは今までの生活の中で、父親がいない事で不自由な思いなんてした事が無い




父の代わりに兄貴があたしを叱ってくれ



父の分までお母さんやじいちゃんばあちゃん、兄貴が沢山の愛情を注いでくれる。




でも、前に1度だけ




1度だけお母さんが過労で倒れ、救急車で仕事場から運ばれた事があった。




その時、あたしはまだ小学校で兄貴達は高校生




多分1番お金が掛かる時期だったんだと思う



お母さんは、あたし達が周りから『母子家庭だから』って言われない様に本当に毎日朝から夜遅くまで働いた。


じいちゃんやばあちゃんとお母さんが運ばれた病院に駆け込み、お母さんの病室に入った時…青白い顔で寝てるお母さんの顔を見て『父親がいない事の大変さ』をあたしは改めて知った。




だから、それ以後兄貴はバイトを2つ掛け持ちし、あたしは子供ながらに考えた『肩叩き券』を沢山作り、頼まれてもいないのに無理矢理肩叩きをしたりしてお母さんの荷を少しでも軽くし、『父親の存在』を消して生活してきた。





「結芽、あんたのお父さん今何処で何してるか分かる?」




「…知らないよそんなの…もう関係ない」




「関係無い…ね…」




敦子先輩がうつ向いている拓を横目で見ながら口を開いた。





「結芽のお父さん、拓ん家庭壊したんだよ?」




「…は?」




「結芽のお父さんのせいで、拓の両親離婚したんだよね?」






あたしのお父さん…?



拓の親が…離婚…?






「あっちゃんの話、よく分かんないんだけど…」




「あんたが福島から引っ越してきた理由って何だっけ?」




「お父さんの仕事が転勤多くて…それでだよ。」




「何の仕事してたか分かる?」




「…知らない。」




不安と謎があたしの頭を掻き乱す。





「ってか面倒だけど、今から話すからさ、あんたのお父さんの最低話!」







もう、ここからは息をするので精一杯だった。




きっと、拓の顔を1度も見れなかったと思う。







あたしの父親の話




敦子先輩の話がもし本当なら




それは本当に最悪だった。


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