第八十時限目
普通、人様の家に上がっておきながら挨拶も無しなんてかなりの非常識。
「挨拶位しようかな…」
「いいけど、多分『朝飯食ってけ』って言われて色々聞かれるよ?」
「…引き止めお願いします…」
「(笑)…本当に送らなくて大丈夫?」
「それは大丈夫。」
呆れた様に笑いながら、霧島君が軽く溜め息をついた。
「知りたいなら、敦子さんに直接聞いてみなよ。」
「え?」
「卑怯って思うかもしんないけど、俺の口からは言えない。」
「………」
「でも、これだけは信じて。」
霧島君があたしの方を振り向いた。
「俺、ちゃんと竹内好きだから。嫌なら敦子さんと関わらない様にするし。」
霧島君の誠意は嬉しい。
こんなあたしの為にそこまでしてくれるなんて本来なら頭を下げてお礼を言うべきなのかもしれない。
でも…
「あたしはそんな偉い人間じゃないよ?それにあっちゃんがまだ悪者って決めつけたくない…」
いざこざが起こる前の敦子先輩は優しくて憧れる位の人だった。
誰だって根っから悪い人なんていない
悪者扱いするのは敦子先輩に聞いてからでも遅くないはず…
「あたし、今日の放課後あっちゃんと話してみる。」
「…そっか…、俺もついて行った方がいい?」
「ううん、2人だけで話たいから。」
「分かった。じゃぁリビングまで送るよ、俺が入ったの確認したら玄関から出て?」
「了解っ。」
それから、あたし達は計画通り霧島君がリビングに入ったのを確認し、あたしは剣道お得意のすり足で静かに玄関から家を出た。
外はまだ寒い。
あたしは40分は掛かる道のりを走ったり歩いたりしながら家へ帰った。
疲れ果てながら家に着き、予想以上にお母さんに怒鳴られながらもシャワーを浴び、そして制服に着替えそそくさと家を出た。
自転車は駅に置いたまんま。
あたしは眠い目を擦り、朝から歩き過ぎてダルい足を半分引きずりながら自転車を取る為に駅へと向かった。
駅に着き、自転車を取っていつもとは違う通学路を走っての登校。
こっちの道はうちの生徒がわんさかいてヤバい位に騒がしい。
「あ、結芽じゃん!おは~」
「お、タカおはよ~♪いやぁ~自転車で楽して申し訳ないね~」
「悪いと思うなら乗せて~(笑)」
「………バイバイキ―ンっ!!」
「コラ―っ!乗せろ―っ!」
「昼休み何かおごるから許して~!」
(乗せて上げたいけど、寝不足で気持ち悪いから…ゴメン…っ)
段々小さくなるタカに手を振り、あたしはいつもより重く感じるペダルを力一杯こいだ。
いつもと大して変わらない距離のはずなのに、学校がかなり遠く感じる。
(ま、まだなの…っ?自転車パンクしてない?)
3段変速機能付きのちょっと豪華な自転車。
あたしはペダルが1番軽くなる段階に切り替え、歩いている人と変わらない程の速度でゆっくり走る事にした。
やっと学校が見えて来て、あたしの体力も限界に近づいていた時。
「結芽っ!」
うじゃうじゃいる生徒の中からあたしの名前を呼ぶ声がした。
あたしはブレーキを掛け、後ろを振り返る。
「結芽おはよ~」
(あ…)
「あっちゃん…と拓…」
敦子先輩が拓と手を繋ぎ、あたしの元へ駆け寄って来た。
「どうしたの?目の下にクマ作って(笑)」
「あ…ちょっと寝不足…」
(本当は知ってるくせに…)
視線を下にやれば2人の繋いでいる手が嫌でも目に入ってしまう。
(朝からだとさすがにヘコムかも…(笑))
拓の腕に手を回しながら、敦子先輩は『余裕発言』をあたしにブチかました。
(あ~目が痛い…早く立ち去りたい…)
「先行ってい?お邪魔しちゃ悪いし。」
自分で言っときながら惨めになるあたし。
「全然邪魔じゃないのに(笑)ね?拓。」
「お、おぉ…」
拓はあたしに気を使ってか、頭を掻く振りをしながら組まれている腕をスッと外した。
(その気遣い、余計にヘコムから…)
「とにかく先行くねっ!!じゃっ!」
再度自転車にまたがり、ペダルに足を掛けた時…
「結芽っ!」
敦子先輩があたしのブレザーを掴んだ。
「…何?」
「あれ…誰にも内緒だよ?」
「…あれ…?」
「に・ん・し・んっ!」
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