第七十九時限目

(もしかして、菜緒達が言ってた人物って…)






あたしは霧島君に掛け寄った。





「貸して」




「何を?リモコン?」



「違う、携帯っ!」




「電話なら自分の使って?もう充電完了してるよね?」




「あっちゃんとのメール内容見せてっ!」





テーブルの上に置いてある霧島君の携帯。




あたしは承諾も無しに携帯を手に取った。





「ちょ、ちょっと!」



「裏で何しようとしてるの?あたしに関わる事なら知る権利があるっ!」




「今更知ってどうすんの!?松澤と敦子さんを別れさせる気!?」



霧島があたしから携帯を取り上げる。




「別にあたしはそんな事しない…っ!」






そんな事しない




出来る訳ない…



例えばあたしが拓と付き合ってて、それで敦子先輩に略奪されたって事ならやってしまうかもしれない。




でも、




ただの友達だった拓に



しかも拓から敦子先輩に告白したのに




あたしが入り込む隙間なんて全然ない。







「あたしはただ霧島君やあっちゃんが何考えてるのか知りたいだけ。」




「…知らない方がいいと思うよ?」




「…どうして?」




「知ったら、きっと竹内は黙っていられない。」




怖いくらい真剣な表情の霧島君




いつもニコニコしてる人にこんな顔をされてしまうと、さすがに怯んでしまう。




「拓……拓はこの事知ってるの…?」





「……」





「霧島君…っ!」





「…松澤は…」






やっと何かが聞き出せる





そう思った時だった。



「伸斗――っ!!起きてるの――っ!?」






1階から霧島君を呼ぶ女の人の声が聞こえて来た。





「…お母さん…?」




「うん。」




時計を見ると、いつの間にかもう6時30分過ぎ。





「え゛っ…、あたしいたらヤバくない!?」



「大丈夫じゃない~?」




「だって夜中に女の子連れ込んでんだよっ!?」




きっと反対の立場で、あたしが夜中部屋に男の子を連れ込んでるのなんかをお母さんにバレたら、きっと兄貴も登場しての説教もん。





「ど、どうしよう…」



あたふたしてるあたしに携帯の着信音が鳴り響く。




「…誰だろ」




こうゆう時に限って、悪い事が続く。






「げ……」




「誰!?」




「…お母様」




「アハハ(笑)踏んだり蹴ったりだね~」



長く続いていた着信音が消え、その後すぐにメールのが来た。




(誰から来たのか見なくたって分かるよ…)




受信ボックスを開く。





《何してるの!学校は?今何処!?早く帰りなさいっ!》





「あ゛―……」




そして1階からは




「伸斗―っ!?」




「起きてる―っ、今降りるからっ!」






あたしはとりあえず荷物をまとめて上着を羽織る。




「帰るの?」




「当たり前でしょ!」



「じゃぁ送るよ?」




「歩いて帰るからいい。」




「え~何で?歩いたら結構時間掛かるよ?」






時間が掛かってもいい



朝から疲れたって構わない




ただ、あたしはちっぽけな意地を張りたかった。






「学校、ちゃんと来てね。」




「怒ってるの?」




霧島君が茶化す様に笑いながらあたしの顔を覗く。




「別に」




「ひゃ~怒ってるぅ!」




(何か腹立つな…)




「あたしキレたら怖いんだからねっ!」




「そう言う人に限って全然怖くないんだよね(笑)」




「……」




「普通に部屋出たら母ちゃんに見つかっちゃうけどいいの!?」




(そうだった…)




後先を考えずに行動してしまうのが、あたしの悪い所。




「…挨拶する…」




「なんて?」




「『あ、ども』って」



「何だそれ(笑)」




霧島君が立ち上がり、ドアノブに手を掛けた。




「まぁ、竹内の靴玄関にあるからバレてるとは思うけど、顔合わせたくないなら俺引き止めとくよ。」



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