第二十六時限目

桂太君と菜緒はベッドに、拓はソファーに座りあたしはどうしたらいいのか分からず立ち尽くしていた。




「結芽ちゃんは拓の隣ね」




「あ、はぁ…」




集団面接の様に、あたしはぎこちなく拓の隣に座る。




「お前目が泳ぎすぎ(笑)」




拓があたしを見て笑う。




「だって…なんか息苦しい…」




あたしは男の子の部屋に入るのが初めて。いくら兄貴がいるとは言え、そんなに仲良くない人のプライベートルームに入るにはかなりの根性が必要だった。




「何かに馮慰されたんじゃねぇの?(笑)」




「その冗談…全っ然面白くないからっ」




拓に話し掛けられ、少し緊張の糸がほぐれる。




「ねぇ菜緒、ここで何するの?」




菜緒に問いかけると、桂太君とニンマリ笑いこう言った。




「あたし、ジュース買って来るっ!」




すると菜緒の隣に座っていた桂太君も




「俺も行くわ。菜緒1人じゃ大変だし」




「結芽と拓は待ってて!」




「えっ!それならあたし行って来るよっ?」



「い~からっ!」




慌てるあたしをよそに、菜緒と桂太君は仲良く買い出しへと出掛けて行ってしまった。



静まり返った部屋の中



あたしと拓はポツンと取り残された。




「ちょっと拓っ、何これ?」




「俺に言うなっての…」




「意味分かんない…」




「ま、とりあえずテレビでも見っか」




拓がテーブルの上からリモコンを取ろうとした時、拓の携帯が鳴った。




そして、その数秒後偶然にもあたしの携帯も鳴り出した。




2人同じ仕草で携帯を見て固まる。




「なぁ」




「はい」




「誰から?」




「菜緒…そっちは?」




「桂太…」




お互い携帯を渡し合い、内容を確認する。




そこには、一字一句全く同じ内容が書いてあった。




『拓と結芽をくっつけよう計画~!!夕方まで帰りません。ご自由に部屋を満喫し、愛を育んでね♪』




「……」




「……」




「「あのバカップル~っ!!」」




とんでもない計画にまんまと乗せられてしまったあたし達。




「拓っ!あんたなんつー友達持ってんのよっ」




「お前の親友だって、その『なんつー友達』の彼女だぞっ!?」




「これからどうすんのっ!」




「あはははは…」




「笑うなっ!」



怒りが頂点のあたしは、呑気にタバコを吸う拓に腹が立ち頭突きをプレゼントした。




「いてぇ~なバカ!」



「うるさいっ!タバコぷかぷか吸うなっ!」



「まぁいいじゃん。夕方には戻んだろ、ゆっくりしてよーぜ?」




「はっ?あたし帰るっ!」




ソファーから立ち上がり、ドアノブに手をかけようとすると拓に止められた。




「帰んなって!」




「何で?」




「いいの?お前が読みたがってた漫画、全巻あんだけど…」




「別にいいっ」




「あ~ぁ…せっかくピザでも取って、食いながら漫画見ようと思ったのに…しかもピザは俺の奢りで」




「ぅぐっ…」




部屋の時計を見ればもう昼過ぎ。




朝ご飯を食べないあたしはかなりの空腹だった。





「さて…結芽さんどうします?」




(こいつ…あたしの性格を把握してるな…)




「…残ります」




ずっと読みたかった漫画…




そして今にも鳴りそうな腹の虫に負け、あたしは拓と夕方まで桂太君の家に居座る事にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る