第二十五時限目
(別に怪しい事してないから話せば良かったかな…)
後から嘘を付いてしまった後悔が押し寄せて来る。
「とりあえず今日はお前が先約だったって事で仕方ねーじゃん?」
「うん…」
いまいちパッとしないあたしの表情を拓が覗き込む。
「そんなにくっつけたいのかよ?」
「そりゃまぁ…」
「あっそ」
沈黙が続いた時、再び拓の携帯が鳴った。
「あわわわっ…あっちゃんかもっ…」
ハラハラするあたし。
「な訳ねぇだろっ」
拓がポケットから携帯を取り出し、画面を見た。
「誰?」
「桂太…」
「桂太君!?」
「出ていい?」
「勿論いいけど…」
なるべくなら、あまり思い出したくなかった人の名前。
「もしもし?桂太?」
あたしを横に、拓は桂太君と話し始めた。
そして5日後…
あたしは、何故か桂太君の強制命令で拓と桂太君と菜緒の4人で遊ぶ事になった。
三が日も過ぎ、騒ぎもだいぶ落ち着いた1月5日。
あたしは朝っぱらから街に出没していた。
待ち合わせは10時30分。駅の改札を抜けた所にある建物の前で落ち合う予定だった。
あたしが待ち合わせ場所に着くと、そこにはもう既に拓の姿があった。
「拓っ!」
「おぉ…」
「菜緒達は?」
「まだみたいだな」
「そういえば拓の私服姿、初めてなんだけど」
いつも見慣れてる制服に包まれてない拓の格好。
色落ちしたジーンズにTシャツの上に羽織るチェックのシャツ。そしてその上にはダウンジャケットを着ていた。
「何か変な感じ…」
「お前こそ、スカートにブーツかよ。ぶっとい足見せんなっ」
「太くないわっ!ボケッ」
行き交う人々が、漫才喧嘩をするあたし達をクスクスと笑いながら通り過ぎる。
さすがに恥ずかしくなったあたし達は言い合いを止め、大人しく菜緒達を待つ事にした。
待ち合わせ時間から40分程過ぎた頃…
菜緒と桂太君のバカップルが仲良く手を繋ぎ参上した。
あたしはルーズな人が大嫌い
ただでさえ嫌々来てたのに、挙句の果て散々待たされ機嫌はすこぶる悪かった。
「おはよ~!」
菜緒があたしに気付き、手を振る。
「遅いっ!あたし待つの嫌いな事菜緒知ってるでしょ!?」
「ごめんっ、昨日桂太の家に泊まったんだけど寝坊しちゃって…(笑)」
痺れを切らしていた拓も、桂太君に突っ込む。
「寝過ごす位疲れる事してんなっ!」
「バ~カ!言われなくても程々にしてるよ」
「やだ桂太てばっ…」
菜緒が照れながら桂太君の背中にタッチをした。
(このっ…)
「こらーっ!朝っぱらからイチャイチャすんなっ!」
いかにも付き合いたてカップル振りを全開に見せつけられ、あたしと拓は怒りを通り越し呆れモードに入っていた。
今日、あたしが渋々この計画に参加したのには目的があった。
桂太君にはきっとまだ彼女がいる。
桂太君はこれからどうして行くつもりなのか、そして菜緒はそれをどう受け止めているのか…
拓には『2人の問題だから』と以前叱られたが、わざわざバイトを休んでまで来たからには絶対に問い詰めてやろうと思っていた。
「ところで今から何処行くんだよ?」
拓が桂太君に質問した。
「本当はさ、街ぶらつこうかって菜緒と言ってたんだけど…」
「けど、何だよ?」
「予定変更っ!」
「は?」
「今から俺ん家行くべっ!」
「「はぁっ!?」」
息がピッタリ合ったあたしと拓を、菜緒と桂太君は笑いながら見ていた。
「け、桂太君家!?何で!?」
「昨日からね、桂太の家の人温泉でいないの。桂太のお兄ちゃんも彼女とお泊まりだから、桂太の家でまったりしない?」
「まったりって…」
拓に目をやると、同じく拓も困惑の表情を見せている。
「桂太…お前さぁ、勢いで物事決めんの辞めろよ」
「たまにはいいじゃんっ!ホラ、時間勿体ねぇから行くぞっ」
「結芽も早く行こっ」
あたしは菜緒、拓は桂太君に腕を引っ張られ、桂太君家へ向かうのにまた電車に乗り、戻るはめになった。
桂太君の地元に着き、バカップルは自転車で二人乗り、あたしと拓はその後ろを重い足取りで歩いた。
小さな遮断機を渡り、少し歩くと住宅街が見えて来る。
「あの家俺ん家っ、拓は何回か来たことあるから分かるよな?」
「あぁ」
まだ新築と思われる独特な匂いが漂う家の中に入り、桂太君に誘われるがまま2階へと上がった。
「入って」
拓や菜緒が当たり前の様に入る部屋にあたしも足を踏み入れると、そこはこざっぱりとした桂太君の部屋だった。
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