第六十一時限目
次の日の朝8時。
「行って来ますっ。」
「どうしたの?今日は早起きなのね。」
いつもと同じ様に制服に身を包み家を出るあたし。
「まぁ、たまにはね。」
「たまにじゃなくて毎日早起きしなさいよ…行ってらっしゃい。」
「今日、夜出掛けて遅くなるから宜しく~じゃぁねっ。」
自転車にまたがり、学校に向かうのかと思いきや、向かう先は元旦に拓と初詣に行った神社。
霧島君とは8時40分に神社の中にある鳩広場で待ち合わせ。
(少し早く出すぎたかな。)
目と鼻の先にある神社にはあっという間に到着してしまった。
さすがに制服姿で出歩く勇気は無いので、公衆トイレに行き、持って来た私服に着替える。
(ヤバイ。トイレ臭い…鼻もげる…。)
なんとか床に服がつかない様死苦八苦しながらも着替えが終了し、次は1番忘れてはならない学校へ休みの連絡を入れた。
トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル…………
「はい○△高等学校です。」
(この声誰だろ…)
「2年4組の竹内結芽ですけど今日熱出たんで休みます。」
「竹内…?あっ、結芽さん?」
(ゲ…この気取った喋り方は…)
「熊田ですけど。あなた本当に具合悪いの?」
保健体育担当の熊田典子、推定もうすぐ60近く。
1度も結婚経験は無く、勿論子供もいない。
あたしは1年の時から何かと熊田に目を付けられていて、いつも些細な事で嫌味を言われる。
例えばこんな感じ。
「結芽さん、耳に黒カビついてるわよ。」
「これピアスです。」
「結芽さん高校推薦の時の面接覚えてる?」
「はい。」
「面接したの私だったの覚えてる?」
「いいえ、さっぱり。」
「結芽さん双子?」
「いえ違います。」
「あらそう?女って化粧でここまで化けるのね。怖いわ~」
「ハハハ…先生こそそんなに塗ったくってたら皮膚呼吸出来なくて顔腐りますよ。」
言い合いになると、お互いとことんけなし始めてしまう。
友達は笑ってみてたけど、あたしは熊田が嫌いで嫌いで仕方なく、大好きな体育が本当憂鬱だった。
「本当に具合悪いです。」
「2年4組って確か田村先生よね?」
「ですけど何ですか?」
(嫌な予感…)
「今代わりますね。」
「いえ結構です。」
「田村先生―っ!」
(ヤバイっ、田村に代わられたら多分嘘だって見抜かれるっ…。)
が、時既に遅し。
「もしもし。」
(あの熊ババ~っ!)
「もしもし竹内か?何だ早く言え。」
無い知恵を振り絞って考えた、あたしの強行手段。
「先生?」
「何だよ?」
「あ、あれ?…電波…悪い…み…たい…」
「あ?」
「熱…ある…んで、今日や…すみま…す。」
「何?熱?」
「はい…あ、充電も無いん…で…失礼しますっ!!」
田村の言葉を書き消す様にそそくさと電話を切った。
「疲れた…ってか絶対サボリだってバレたな。田村ごめんねっ、今日だけにするからっ。」
携帯に向かって独り言を言い、時間を見ると既に45分。
「うわっ、もう霧島君来てんじゃん!」
あたしは急いでトイレから出て、待ち合わせ場所の鳩広場へと走った。
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