第六十二時限目

「霧島君ごめんっ!」




急いで行くと、広場のベンチに座り、何やら鳩と戯れている霧島君がいた。




「竹内おはよっ♪」




「…何してんの?」




「朝ご飯あげてんの♪」




「制服姿で何を呑気に…」




わざわざ私服に着替えたあたしとは違い、上から下まで制服姿の彼。




「竹内の私服姿初だね~」




「わざわざ着替えたんですけど。」




「え~何で~?」




「だって平日に制服でウロウロ出来ないでしょっ!」




「別に今日ウロウロはしないよ?」




まつ毛をバサバサさせてキョトンとしながらあたしに言う。




「今日は俺ん家に行くんだよ♪」




あたしは1秒間に3回位短いまつ毛をバサバサさせる。




「………」



「あれ、どうしたの?」




「いや、もっかい言ってくれる?」




霧島君に1歩近づき、話を聞こえ易い様に耳を傾けた。






「今日」




「うん」




「今から」




「うん」




「俺ん家♪」









「ん?」







2回聞いてもやっぱり同じ。





「霧島君家?」




「そだよっ。」




「2人だけ?」




「当たり前じゃん(笑)あ、なんなら鳩連れてく?(笑)」




「アハハ、それいいね。」





全然良くない…





「無理っっっ!!!」



あたしの声に反応したのか、朝食を取っている鳩が一斉に飛び立つ。




「何で霧島君家っ!?」




「別に襲ったりしないよ?」




「な…っ、そんなの当たり前でしょっ!」




本当、可愛い顔してサラッと爆弾を投げる霧島君。



「親は自営業だからもう仕事場行ったし、気ぃ使う事ないよ?」




「今日はあたしに見せたいのがあるんじゃないの?」




「そうだよ?」




「そこに連れてって下さい。」




「竹内はそこならいいのね?」




「勿論っ、その為に学校休んだんだから。」



「そこならいいよね!?」




「……うん?」




「よしっ、じゃ行くよっ♪」





霧島君がルンルンと軽い足取りで歩き出す。




一方あたしは乗ってきた自転車を取り、その後を追った。





「竹内~。」




「何でしょう?」




「自転車邪魔かも~。」




「え、何で。」




「今からコレで行くんだよ~っ!」




「どれ?」




「こ・れ・」



霧島君が慣れた手付きで操作しだした物…







「バイク!?」




「そうだよん♪これならひとっ飛び~♪」




「これ原付…2人乗りっていいの?」




「平気っ、田舎道走るからっ!」




「いやいや、いいのかダメなのかって…」




「ホラホラ早く後ろ乗ってっ!」




バイクに乗るのはこれで2回目。





初めて乗ったのは確か9歳の時。





当時高校生だった双子の弟の方の兄貴が、怖がるあたしを無理矢理バイクに乗せ、人すら通らない気味悪い道を夜遅くに、しかもノーヘルでドライブした事があった。




兄貴は妹思いのつもりでやった事だったのだろうけど、大泣きで家に戻ったあたしを見てばあちゃんとお母さんが兄貴をメッチャ怒ってたっけ…




昔を思い出し、躊躇しながらもゆっくりとバイクにまたがった。





「ハイっ、ヘルメットっ!」




「ありがと…あれ、霧島君のは?」




「1個しかないもん。」




「え゛、ダメじゃんっ!」




「嘘♪実はもう被ってるよっ!」




視線を霧島君の頭へと移す。




そこには丁寧にケアがほどこされてあって、更によく見ると、天使の輪が出来ているそれはそれは綺麗な






霧島君の黒い髪。





「ねぇ…」




「何ぃ?」




「あたしにはどうしても髪の毛にしか見えないんですけど…。」




「うんうん、俺も見えない。」




「は?」




「あ~時間勿体無いっ!竹内、俺に捕まっててね!」




「わわわわっ!」




ゆっくりご主人様の運転によって走りだすバイク。




「ねぇっ!」




「ん?何!?」




「どれくらいで着くの?」




「30分あれば十分かな~っ!」





あまり人気が少ない道を選んで走る霧島君。



「竹内、ケツ痛くない?」




「うん!平気っ!」




「怖くない!?」




「怖くないよっ!!」



「じゃ、少しスピード上げるねっ!」




あたしも霧島君の制服を掴む力が自然と強くなる。




(この人面白いかも…)






まだまだ今日は始まったばっかり。





とりあえずあたしは霧島君のバイクに乗り、何処に向かってるのかさえ分からない久々のドライブを満喫した。

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