第五十六時限目
奴の存在に気付く訳が無い。
気分転換だろうか、髪は坊主で色は金。
机の上に肘を付き、尚且頬ずえをつきながらあたしを凝視していた。
「……」
拓に見られて金縛りにあうあたし。
そして、ふと思い出す言葉…
『ごめんねっ!頑張って!』
(桂太君知ってたなっ!!)
そしてようやく先生が登場。
「……え゛ぇっ!!」
本日2回目の金縛り。
「せ、先生が担任…?」
「ハッハッハ、まぁな、後で正式に発表されるから。しっかり面倒見てやるぞ~?」
『ポークビッツ』
剣道部の顧問で、全てが小さい30歳。
『田村勝』…
「先生」
「ん?」
「あたし、先生の顔見るの部活だけで精一杯です」
「何だお前…冗談きついな~」
「ハハハ…あたしの方がきついです」
「お、松澤もちゃんといるなっ、お前等仲悪いもんなぁ(笑)」
「…先生わざとだろ」
「あ?何だ松澤!?」
「…何でもないです」
後ろを見れば松澤拓。
前を向けばポークビッツ…
(なんじゃこのクラス…)
今年1年間の新しい日々を飾る第1日目。
(悪夢だ…)
それから、軽い頭痛に悩まされたあたしはただひたすら机と睨めっこをしていた。
それから始業式が始まり、終わってからは各教室で自己紹介。
真面目に話しを聞いてる人もいれば爆睡してる人もいる。
順々に紹介が過ぎ、次はあたしの番。
「次、竹内っ。」
「はい。」
田村の提案。
自己紹介する時、前から3番目までは回れ右をして挨拶をする事。
(小学生じゃないんだからさ…)
殆どの生徒が聞いてない中、あたしは回れ右をして自己紹介を始めた。
「竹内結芽、剣道部です…ヨロシク…」
「何だ竹内、趣味とか言ってみろ。」
ハリキリすぎの田村。
(この野郎…趣味なんか無いってのに。)
「趣味…?趣味…は…」
(あ~どうしよ…あたしこーゆうの苦手だぁ…)
「結芽ちゃん頑張って!」
すぐ側では、にこにこしながらあたしを応援する多香子。
(何か適当でいいよね…)
パッと頭に閃いたあたしの趣味…
「趣味は無いです。」
皆、『こんだけ待たせといて結果それかよ』みたいな表情。
「竹内…趣味が無い奴も珍しいぞ?」
田村も呆れながらあたしに言う。
「すんません…次、さっさと行って下さい。」
そして何事もなかった様に、またつまらん挨拶巡り。
(早く帰りたい…お腹すいた…)
暇なあたしは、ただ無の世界に入り浸る。
「結芽ちゃん、案外緊張屋さんなんだね♪」
多香子がボーっと空を眺めてたあたしに話し掛けて来た。
「結芽でいーよ、ちゃん付けはむず痒い(笑)」
「分かった!じゃぁ、あたしもタカって呼んでねっ。」
「いいよっ♪」
それからタカとはドラマの話題で盛り上がり、すぐに仲良くなれた。
そして最後にクラス委員決め。
「クラス委員は、自己紹介が下手クソだった竹内っ!」
「え゛っ…嫌です。」
「で、男子は…。」
(シカトですか…)
辺りを見回す田村が目に止まった人物…
「よし、剣道部同士タッグ組めっ!男子は松澤っ。」
「はっ!?俺っ??」
背後から上擦った拓の声が聞こえて来る。
「お前等似たもの同士だから何かと気が合うだろ。」
「「嫌です。」」
ソプラノとテノールの綺麗なハーモニー。
「ハハハ、仲良いな。じゃ決まりっ!」
「結芽頑張って!」
タカの声で後ろを振り向くと、拓と目が合ってしまった。
(わ…超気まず…っ)
急いで目を反らし、体を黒板へと向ける。
「今日は後掃除して終わりだからな。竹内と松澤はちょっと残れよ!」
ホームルーム終了のベルが鳴り、皆はトイレや他のクラスへ行くために教室を出ていく。
あたしも菜緒の元へ向かう為、教室を出て2階へと降りた。
「菜緒っ!!」
廊下で桂太君といる菜緒に飛び付く。
「結芽~っ!お疲れ様~っ!」
「あのねっ、大変な事が起きたの…っ!!」
「知ってる、クラス委員でしょ?」
桂太君があたしの頭を撫でながら言った。
「何で桂太君知ってんの?」
「だって拓からメール来たもん。」
「拓からっ!?何て?」
「それは内緒。」
「…どうせムカつく内容でしょ。」
「さぁ~?」
「あたし桂太君恨んでるからね…。」
行き場の無い怒りを桂太君にぶつける。
「だから朝はごめんって!だって結芽ちゃんにあいつとクラス一緒なの教えたらマジ帰ったでしょ?」
「拓どころか田村が担任だよっ?……しまいには拓とクラス委員…あり得ない…。」
「まーまー(笑)田村は仕方ないにしてもさ、拓は仲直りするチャンスだよ?」
「仲直り!?」
もう3ヶ月もろくに口を聞いてないのに仲直りもへったくれもない。
拓はあの日、あたしを切り離した。
あたしだって拓にかなり酷い言い方をした。
だからきっと拓はあたしの事なんて同じ空気を吸うのも嫌なはず…
桂太君が言う。
「あいつがあん時あんな酷い言い方したのもさ、何か訳があんだと思うよ?」
「ないよそんなの…あれが拓の本音だよ。」
「黒幕は他にいるんだけどなぁ…。」
「何?黒幕って…。」
あたしが桂太君に問いかけると、菜緒が桂太君の足を蹴った。
「あ…また何か隠してる…。教えてっ!」
「ダメ。」
「ズルイっ!」
「菜緒、結芽ちゃんにもう…」
「絶対ダメっ!」
ムキになる菜緒。
「いい?結芽。あんたはいつもあたし等が動いてあげなきゃ何もしないんだから、今回は自分で動いて自分の目で知りなっ!」
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